FAP療法, アダルトチルドレン, カウンセリング, トラウマ治療 2021/08/14 (土) 5:56 PM
近頃、バンデア・コーク先生らの論文を読み進めています。非常にこれまで複雑性PTSD関連の専門書を読み進めて来ましたが、一番レベルが高く「うお~!」って感じになりながら進めております。
しかし読み進めて行くにつれて、非常にその奥深さを感じます。
Developmentari Trauma Disorder (発達的なトラウマ)というのは、バンデア・コーク先生に提唱された診断基準の名称であります。以下になります。
A~Dの4つのカテゴリーと、それぞれの状態が記載されています。
A:人生に同時に引き起こされる発達的トラウマの経験
1)トラウマティックな対人関係被害
2) 最初の世話をする人達との混乱した愛着関係
B:現在の状況における感情、もしくは身体感覚の不調性
1) 感情の不調性
2)身体感覚の不調性
3) 感情や身体感覚につながることが困難
4)言葉によって感情や身体感覚を落ち着かせることが困難
C: 現在の状況における注意、行動面での不調性
1) 脅威からの身を守る際の注意の偏り
2) 自分を守って行く事が困難
3)自分を落ち着かせることが困難
4) 自傷行為
5)目標設定し、そのために行動を維持したり、親密な関係を維持する事が困難
D:現在の状況における人間関係、自己観の不調性
1)自己嫌悪もしくは、ダメージを受け欠落した自己観
2)愛着の不安定さと混乱
3)裏切りをベースとした人間関係の信念
4)言葉と身体による攻撃的反応
5)心理的境界を維持する事の困難さ
6)人間関係の中で共感する事の困難さ
この論文の著者のJoseph Spinazzola氏は、アメリカ心理学会にバンデア・コーク先生がこの発達的トラウマを診断基準(DSM-5)として提案したところ「エビデンス不足です」を理由に却下されてしまったと述べています。
そして「そのエビデンス不足です」という事に対し「いやいや違いますよ!」っていうスタンスで271人の子を対象に再度研究を行ったのです。現在使われているDSM-5の中には診断名としてPTSD(心的外傷後ストレス障害)というカテゴリーがあります。
しかしバンデア・コーク先生らは、そのPTSDの診断ではおさまりきれない発達的トラウマを抱えている人達の問題を主張し、その重要性を訴えたのでした。
ある意味、この研究はアメリカ心理学会に対する「リベンジ!」という感じですね。
そして「発達的トラウマはPTSDとは独立したカテゴリーであり、発達的トラウマはトラウマによる被害と幼少期における愛着問題を抱えている事から派生する」と仮説を元に研究されたのでした。
その結果、初期の世話をする人達との関係で「愛着トラウマ」を抱えている子供は、上記の4つのカテゴリーに記載されているような発達的トラウマの症状を抱える傾向が強いと結果が出たというのです。
そして身体暴力、性的虐待、家庭内暴力は発達的トラウマと強く関係し、そして不安定な愛着関係と関連するというのです。また親とのトラウマティックな分離経験、親の障害、ネグレクトの問題、感情的虐待、身体的暴力もまた、大人になってからの愛着関係の不安定さに影響を及ぼすという事でした。
人生早期の世話をする人との愛着関係が阻害されるという事は、上記の発達的トラウマの状態を抱えてしまうというのです。
こちらの研究の中で非常に興味深かかったのが、A-2の要因(最初の世話をした人達との混乱した愛着関係)が発達的トラウマに強く関係があるという事でした。
私の頭の中では「A-1 (トラウマティックな対人関係被害)の方が影響があるのでは?」って思ったのですが、「混乱した愛着関係が及ぼす影響の方が強い」という結果だったのでした。
非常に興味深く感じました。
それだけ親・子の安定した愛着関係は、子供が成長し外の広い世界を生きて行く上で非常に大切な要因なのだという事です。
もう少し、読み進めながら理解を深めていきたいと思います。
●参考文献
Joseph Spinazzola, Bessel van der Kolk, Julian D.Ford.(2021). Developmental Trauma Disorder : A legacy of Attachment Trauma in Victimized Children.Journal of Traumatic Stress, (0 ),1-10.
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