●PTSDとは
PTSDとは心的外傷後ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder)の略語です。深刻な生死に関わる危険に遭遇したり、そのような現場を目撃する体験によって強い恐怖を感じ、それが心の傷として残ってしまい、当時のトラウマの感覚を何度も思い出されてしまう等の状態をさします。
突然、怖い体験を思い出す、不安や緊張が続く、めまいや頭痛がある、眠れないという症状が出てきます。またトラウマに関連することを回避する、否定的思考、同じことをぐるぐると考える、凍りついたように動けなくなる、感情の麻痺等の症状があります。
恐怖の体験をした後では、その出来事を繰り返し思い出したりするけれど、数週間の間に恐怖が緩和される様になります。PTSDの状態ではトラウマの記憶が1ヶ月以上思い出され、日常生活で重大な影響を引き起こしているのが特徴となります。
人はあまりにもショックな出来事に遭遇すると、記憶と感情が統合されず、過去の経験として整理されなくなってしまいます。その結果、トラウマにまつわる様々な症状が出てきてしまうのです。
これらの症状を抱えていますと「ご自分がおかしくなってしまったのでは?」と思われるかもしれません。しかしこれらはトラウマを経験した際の、心の自然な反応なのです。
日本で心的外傷後ストレス障害が注目される様になったのは、阪神・淡路大震災等がきっかけです。その他の例では、犯罪被害、交通事故、自然災害、虐待、DV(家庭内暴力)、パワーハラスメント、いじめ等による場合もあります。
PTSDを発症した人はうつ病や不安障害、アルコールの問題、摂食障害を併発する場合もあります。東日本大震災では、被災した地域ではアルコール問題を抱える被災者の数が増えたという研究も報告されています。PTSDについて向き合って行く事は、こうした様々な問題の予防に繋がるかもしれません。
PTSDの症状は主に次のようなものがあります。
・突然、苦しい記憶がよみがえる
(再体験症状)
トラウマにまつわる記憶と感情が突然襲ってくることがあります。トラウマにまつわる恐怖、怒り、悲しみ、無力感などの様々な入り混じった感覚が襲ってきます。トラウマは過去の事なのだけれど、その事件、事故を何度も生々しく思い出されます。またトラウマにまつわる悪夢を繰り返し見ることもあります。
・トラウマの記憶を思い出す状況や場面を避ける(回避)
トラウマを経験しますと、日常の様々な害のない対象物との接触によってトラウマの記憶を思い出すようになります。このような形で何度もトラウマの記憶を思い出させれるうちに、トラウマの記憶を呼び起こすきっかけを避ける様になります。トラウマの記憶を呼び起こす対象を回避することによって、行動が制限されて日常生活の行動範囲が狭くなってしまう場合もあります。
・常に神経が張り詰めている
(覚醒亢進症状)
トラウマを経験した後、それまで気になっていない事に対してイライラ感が出てきたり、些細な事で驚きやすく警戒心が高くなります。そのため不眠傾向になったりする事もあります。
・感覚が麻痺をする(解離症状)
トラウマの記憶に苦しむことを避けるために、感情や感覚が麻痺してしまう状態です。そのために家族や友人に対し、これまで持っていたような優しさの感情を感じられなくなったり、人に対して心を許すことができなくなる場合もあります。これは、つらい経験の記憶から心を守るための自然の反応です。
PTSDは生死に関わる様な危険な経験したり、それを目撃したりする場合に発症します。そしてPTSD の発症率については、トラウマの重症度によって影響されると言われています。外傷的出来事への曝露の強さ、その期間、また接近度が、このPTSD発症に大きく影響すると言われています。
またトラウマ被害を受けた人のすべてがPTSDを発症するわけでなく、PTSDを発症した場合でも半数は自然に回復すると言われています。症状の持続期間は様々で、症例の約半数は3ヶ月以内に回復すると言われています。
PTSD発症の要因として、過去に精神的な問題を抱えていたり、虐待等のトラウマ(複雑性PTSD)を経験している場合等が考えられます。
またPTSDが慢性化する重要な要因として社会的サポートの影響があります。
とくに被害の相談をした際に、周囲から心ない対応をされる等の二次的トラウマを抱えていますと、回復は妨げられてしまう場合があります。その為、サポーティブな状況にいても「人に言いたくない」と精神的に引きこもってしまい、結果的に症状が長引いてしまう場合があります。
トラウマによる心の苦痛を和らげていく治療法もいくつかあります。FAP療法、認知行動療法、EMDRなどです。これらのトラウマに対する心理学的技法の効果は高いと言われています。当相談室ではその中でもカウンセリングを通してお話を伺い、トラウマやPTSDにターゲットを絞ったFAP療法を行っております。
FAP療法(Free from Anxiety Program:不安からの解除プログラム) は、2001年に大嶋 信頼 氏によって開発された心理療法です。PTSDの諸症状や恐怖症の克服等に劇的に効果を示します。トラウマ治療研究の盛んなアメリカでは、トラウマ治療の方法としてEMDR、TFT等があります。FAP療法はその中の一つとして位置付けられています。
トラウマは、言語化し難い恐怖と言えます。人はあまりにも受け入れがたい恐怖(トラウマ)を経験しますと、そのトラウマの記憶を消し去ってしまう事で、その後の人生を生き抜いていく自己保存能力を持っています。
それを専門用語で健忘と言います
トラウマを記憶から消し去る事で、ご自分を保って生きていけるのです。
しかしこの健忘や、トラウマの言語化しにくい感覚を表現していく事の壁を抱えていますと、そこから派生するトラウマの症状から解放が難しい状況が起こります。
FAP療法を用いトラウマ治療を進めさせて頂く事で、これらの2つの問題をクリアしていくことができます。FAP療法によって無意識にあるトラウマの記憶と感情を統合し、トラウマにまつわる症状を取り扱っていくことが出来るのです。
認知行動療法では、トラウマに関連する記憶を詳細に思い出しながら、その未消化になっている感情を吐露して行く作業が必要となって来ます。
その際、トラウマの記憶を再び思い出す苦痛を感じるかもしれません。
しかしFAP療法では、その様にトラウマにまつわる記憶を詳細に思い出す必要がございません。安全な形で短期間にトラウマの問題から解放されていく事が出来ると、FAP療法に関連するいくつかの研究では報告されています。
お客様の現在の生活環境を保ちながら、苦痛なく楽に過去のトラウマの問題を越え「本来ある力」を生かしながら自由に生きていけるサポートをさせて頂きます。
あるクライアントは、日常生活の中で様々なPTSDの症状を抱えていました。
その症状は、家事をしている時に包丁を持つ事ができない。包丁を持っていると、怒りと恐怖の感覚に襲われてしまう。そのため包丁を使って料理をする事ができなかったのでした。
またカッターや刃物系統が側にあると、切迫感と恐怖と自分を傷つけたくなる感覚に襲われてしまっていた。そのため、なるべく刃物系統は家のそばには置かない様に過ごしていたのでした。
この方のPTSDの症状は、怒りと恐怖のフラッシュバックに襲われてしまう「再体験」の症状、またそのフラッシュバックに度々襲われてしまう苦痛を回避する為に、刃物系統を使えないという「回避」の状況もあった。
そして普段、問題が起きていない状況であっても常に警戒心を抱え「覚醒亢進」の状態もあった。
このクライアントは、家庭内暴力(DV)のトラウマを抱えていたのでした。
家では父親が暴れていた。このクライアントは、父親から刃物を突きつけられたトラウマの経緯が過去にあったのでした。当時は感覚麻痺の解離状態も抱え、周囲がボンヤリしとしか感じられず自分の感覚が感じられない状況も抱えていた
この家庭内暴力のトラウマについて、FAP療法を用いご提案をしていった。
これらのトラウマにまつわる様々な症状、フラッシュバックや強い警戒心は、その父親の家庭内暴力から由来するものとしてトラウマ治療を進めた。
当初、クライアントは常に「恐怖」と「死の感覚」と「虚しさ」に包まれていた。それは何に影響されているか、検討がつかない状態であった。
しかし「父親からの暴力のトラウマ」をFAP療法でトラウマ治療を進めて行くうちに、常に感じていた「恐怖」や「死の感覚」は次第に薄らいでいったのでした。そして「生きる虚しさ」も薄皮を剥がす様に消えて行き、自然に「生きて良い」という感覚を感じられる様になったのでした。
家庭内暴力のトラウマによって、断片化してしまっていた「恐怖」や「死の感覚」が記憶と感情が統合されて、過去の一コマとして整理されていった経緯が確認する事ができた。
それまで包丁を使うと、フラッシュバックによって料理に集中する事が難しかったが、次第にこのフラッシュバックの強さや頻度も軽減してきた。
包丁を使って料理をすることもできる様になって来られたのでした。
これらの症状以外に「人への恐怖心」も、このトラウマに関連していたのでした。クライアントは人を前にすると、恐怖で固まってしまって言いたいことが伝られない状態があったのでした。
この家庭内暴力のトラウマから解放されるにつれて、次第に状況に応じて相手に合わせ言葉を選び、人との適度な距離感を保ちながら楽しめる様になったのでした。それまでトラウマによる恐怖を抱えていた事で、人とのコミュニケーションにも影響を及ぼしていたのでした。
家庭内暴力のトラウマによるフラッシュバックが緩和し、それと共にトラウマにまつわる「死」の感覚から解放されて、ようやく「生きる」という事ができるようになって来られたのでした。
トラウマを抱えていた当初は、トラウマを受けた「過去」に時が止まってしまっていた。今を生きているつもりが、トラウマの「過去」に縛り付けられてしまっていたのでした。
FAP療法でトラウマ治療をして行くにつれて「今」を感じられる様になり、そして「未来」を期待し、自分の可能性を信じられる様になって来られたのでした。
●FAP療法を用いた、PTSDからの回復についてこちらのブログ(世界に一つだけの花)の掲載されています。ご興味のある方はご覧下さいませ。
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