体重や体形への極度のこだわりと過剰な食行動が日常生活や家族間のトラブルを生じます。 DMS-5(精神疾患の分類と診断の手引き5版)の中でも代表的なものが神経性やせ性/神経性無食欲症と神経性過食症/神経性大食症です。
一般には拒食症と呼ばれています。正常な平均体重を大きく下回っているにもかかわらず、食べ物の必要量とカロリー摂取をかたくなに制限します。肥満や体重増加に対しての計り知れない恐怖を感じています。おなかや太ももなどの体の一部の変化に強く執着します。体重へのこだわりにより、外出が困難になることもあります。「●●㌔以下でなければならない」という信念を持っています。完璧主義、頑固、性的関心が低い、強迫症状、不安感、食事を始めるまでに時間がかかるなどの特徴があります。
拒食症(神経性やせ性/神経性無食欲症)には2つのタイプがあります。
●摂食制限型
平均体重を大きく下回っても食事の量を制限します。
●過食・排出型
食後に自己誘発性嘔吐を誘発したり、緩下剤、利尿薬、浣腸を繰り返し使用して過食に食べたものを排出します。
拒食症(神経性やせ性/神経性無食欲症)は、からだは極度に痩せた状態でもなっても、「太ったらどうしよう」という不安に脅かされていますが、一体このエネルギーはどこから来るのだろうかと思えるほどの覚醒状態にあり、元気で饒舌で俊敏だったりするので驚かされますが、栄養失調いよる体への負担は免れません。
低血圧、低体温、皮膚の乾燥、生理がない、不整脈、脳の萎縮などの症状が伴い、生命の危険が生じる場合もあります。男女比率では圧倒的に女性に多い精神疾患です。
一般には過食症と呼ばれています。 過食症も拒食症(神経性やせ性/神経性無食欲症)と同様に、自己誘発性の嘔吐が症状の中にあるのかないのかで二つのタイプに区分されています。
●むちゃ食い/排出型
過剰に食べ物を摂取して自己誘発性の嘔吐を繰り返すタイプです。
体型はスリムな状態を保っています。痩せすぎず一見すると何ら問題のない健常者のようにも見えます。
●制限型
下剤などを利用しながら体重を減らして、過食と極端なダイエットを繰り返すタイプです。自己誘発性の嘔吐はなく体重増加と減少を行き来します。男女比率では拒食症同様に女性に多い精神疾患です。
摂食障害は、社会的要因、心理的要因、家族環境、遺伝的要因が関与しており、遺伝子的要因と環境的要因の相互作用によると考えらえます。
1)社会的要因
摂食障害の特徴として体重や体型に対するこだわりがあります。
マスメディアや雑誌等ではダイエット関係の広告が多くみられ、モデルのように痩せている事が推奨されている社会かもしれません。「女性の美しさ=痩せている事」という風潮があります。摂食障害の要因として、このような社会的背景も否定できないかもしれません。
2)心理的要因
「神経性食欲不振症」の心理的要因として、否定的で低い自己評価、強迫性パーソナリティ傾向や完璧主義等が考えられています。
また「神経性過食症」や「むちゃ食い障害」では、抑うつや不安等が関連があると報告されています。
3)家族環境
摂食障害の問題を抱える家族的背景として、家庭内での虐待やその他葛藤があったり、両親の別居や離婚等の両親の不和、また情緒的ネグレクト等の親との交流の乏しさ、親から過度の期待や過干渉を受けた場合も摂食障害の発症の要因と考えられています。
4)遺伝的要因
近年、心理・社会的要因以外にも、摂食障害に遺伝的要因が影響していると家系研究や双生児研究によって明らかとなってきました。「神経性食欲不振症」と「神経性過食症」では、それぞれ異なった遺伝子が関与しているが両者に遺伝的関連が認められており、まったく異なった病気ではないという事がわかって来ています。
過食症/拒食症(摂食障害)は、「食行動」の意味をわが子の生命維持とわが子への安心感と愛情と捉えた時、それは親と子の関係の病と定義できるかも知れません。乳幼児期の愛着形成が不安定であったり、親からの虐待やネグレクトがあったりすると、子どもは泣き叫んでも心配もしなければ、見向きもしない親に対して「抑圧された怒りや不安」を持ち続けます。
ところが、その親自身も乳幼児期に同じような「抑圧された怒りや不安」を両親(祖父祖母)から与えられ、親の苦しみを子どもが背負い、問題行動として過食や拒食が生じているということがあります。ただでさえ振り向かない、私に無関心な親を振り向かせるには「ちょっと変わった花火を打ち上げてやれ、てこずらせてやれ、クタクタにして私の事だけを考えるようにしてやれ!」これが摂食障害の正体だったりするのですが、わが子が変わるには親御さんご自身が変わっていかれる必要もあるかもしれません。
一見すると「問題のないふつう」の家族にこうした状況がある場合もあります。「問題のないふつうの」という表現は、「抑圧」が巧妙に働いているケースもあります。そして怒りや不安は摂食行動に置き換えられる場合もあるかもしれません。こうした親の特徴として、無意識に、怒りの裏返しとして「よい母」を演じてしまう事があったりします。
娘が当然のものとして愛情を求めてくると、母は嫉妬や怒りを感じます。母親自身が上の代(祖父母)からもらえていない愛情を、娘が当然のごとく求めてくることに葛藤を抱えてしまうのです。
だけれども母自身も葛藤を抱えてしまっているので、娘にとって「良い母」であるべきだと苦しんでしまわれる。すると表向きの言葉と内心感じている感覚が、食い違ってしまう場合が出て来ます。これをダブルバインド(二重拘束)と言います。
「ケーキをたべてもいいけど、甘いものは食べないでね」「勉強とピアノも稽古は今日はやらなくてもいいけど、明日はクラスで1番になってね」このような「Aはいいけど、Bはお願いね」という相矛盾する二重拘束(ダブルバインド)のメッセージをわが子に与えてしまい、娘の方は愛されているのかいないのかわからないような不安な状態に陥ってしまう場合があります。
無意識の巧妙な怒りの表現がここに刻み込まれると、その不安や孤独感、見捨てられた感を落ち着かせるために「食行動」は極端かつ過剰になり、研ぎ澄ませれ、反復し、家族内で負のバランスを保ちながら、「力」や「才能」、「能力」を消費しつづけます。
女性に多い疾患の過食症/拒食症は、ある種の依存症(嗜癖)と言われています。男性の場合ですとこれがアルコール依存症に該当します。人は報酬があるからこそ、その行為をもう一度してみたいと思います。ほめられた、喜んでくれた、給金が手に入った、心配してくれた、親が認めてくれた等々。依存症(嗜癖)という反復繰り返しの行動の中にも、本人にとってプラスに働くものが潜んでいるからこそ、その行為を繰り返してしまいます。
アディクション(嗜癖)やアダルトチルドレンの研究で有名な斎藤 学氏は「嗜癖」について以下のように述べています。「合目的的で適応的であったひとつの行動が、適切な自己調節機能を欠いたまま積み重ねられ、もはや個体の利益にそぐわない状態」と斎藤 学氏は述べています。
「自分の利益にそぐわない状態」とは、過食や拒食が当てはまりますが、こうした特殊行動は絵画で喩えるばらばシュールレアリスム的な表現力をもって、他者(母、家族、社会)に強烈に何かを訴え自己表現を死に物狂いでしているように感じてしまいます。
お酒でも過食/拒食でも、飲んでいる時、食べている時は快を感じますが、その後必ず不快感が伴います。習慣化してくると「不快感に鈍くなっていくという傾向」が生じて、報酬効果しか感じられなくなるため過食/拒食がストップできなくなる訳です。心身に負担をかけてまで嗜癖化してしまう過食や拒食をする人たちへの報酬とはいったい何なのでしょうか。
人にとっての「食行動」の意味について皆さんは考えたことはございますでしょうか。食べ過ぎや極度の空腹(飢餓状態)でからだに不快感が伴ったりしなければ、意識的にこのようなテーマについて、思いを巡らすことは殆どないかと思います。
つまり、「食行動」とは意識的な領域からはやや遠い無意識領域に近いものであり、からだと心が混ざり合ったあいまいな次元のものでもあり、他者との関係の中で様々な感情が揺すぶられる次元のものでもあります。
多く食べることでからだは太ります。食べないことでからだは痩せます。隠れ蓑でもない限りからだは消すことができません。からだのかたちは人の視界(社会)に必ず入ります。たくさん食べることは人を驚かせたり、心配させたりさせます。食べないことも人を驚かせたり、心配させたりするでしょう。食べ物を嘔吐している人を見て無関心でいられるような人はあまりいらっしゃらないと思います。
言葉と同じように、「食行動」もそのひとつの表現力です。産まれたばかりの乳児は言葉を用いず、泣きわめくことで母親に空腹をアピールしてミルクでおなかを満たします。乳児はわがままに容赦なく泣くことで、母親から心とからだの不快感を取り除いてもらいます。
このように母子関係を原点にはじまる「食行動」は、空腹を満たすと共に母親からの愛情や安心感を獲得します。もしも赤ちゃんが自分を客観視できたとしたら、こんなセリフを述べるかもしれません。「お母さんはわたしの鳴き声(不快感)をちゃんとわかってくれる。わがままが許される環境でわたしは成長しているんだ、、、」。人の愛情とここに居ていいんだという安心感の原点がここにあります。
「わたしは〇〇庁のA研究班のトップから、突如、今後1年間はレトルト食品だけを食べ続けるように義務付けられる通知を受け取った」 カフカの小説に出てきそうな、こんな命令が自分に下されたとしたら、「ショック、渇き、砂漠、殺伐、寂寥等々」が頭に飛来するのはわたしだけでしょうか。このように「食行動」には安心感、健康、生命維持という当たり前すぎる重要な要素で混ざり合っています。
そのため「食行動」に長期間問題を持ち続けて生活しているということは、当たり前すぎる精神的なエネルギーの消費量が誤った方向に使用され続けているといえます。
そんなエネルギーをあるべき方向に発揮できたとき、きっとそれがあなたの「才能」や「力」の発見につながってゆきます。したがって、適切な「食行動」に近づくことは、あなたの「力」や「才能」が大きく開花することにもつながって行くかもしれません。
摂食障害の背景には家族的環境、心理的要因、社会的要因などの様々な要因が複合的に影響していると考えられます。当相談室では、主に摂食障害の問題の背景として考えられる、家族環境における問題について、カウンセリングでご提案をさせて頂いております。
幼少期の家庭内におけるトラウマの問題を抱えていますと、根底の恐怖(見捨てられる恐怖)を抱えて生きる事になってしまいます。それらは時に対人関係における不安や緊張感、苦しい思考をグルグルと考えて囚われてしまったり、お酒や買い物に依存してしまう等の症状を抱えてしまうのです。
これらの問題は大人になっても「根底の恐怖(トラウマ)」は未消化な状態となり、依存の対象物(食べ物)でその恐怖を落ち着かせるというサイクルが出来てしまうのです。日常生活の様々な場面において、この根底の恐怖を刺激される状況になる度に、パニック状態に陥ってしまい過食をして落ち着かせるという悪循環となってしまうのです。
当相談室では、根底にある恐怖(トラウマ)についてFAP療法を用いトラウマ治療を提案致しております。FAP療法を用いトラウマ治療をご提案させて頂く事で、幼少期のトラウマについて詳細に思い出したり言語化していく必要がなく、安全な形でトラウマ治療が進めることが可能となります。
幼少期のトラウマの記憶と感情が統合されるにつれ、症状の元となっている恐怖の感覚が消化されて行きます。その結果、不安や恐怖を落ち着かせる為に依存の対象物(食べ物)を必要とする事が次第に軽減されて行きます。
また同時にトラウマの問題と付随する、様々な問題(自尊心、不安感、対人関係、アダルトチルドレン:生きづらさ)の問題を同時に改善して行かれます。症状の改善のみならず「自由に生きる」をサポートさせて頂きたいと思います。