人は抵抗も回避もできないストレス環境に長期間に居続けるますと、不快な状況を回避する行動すらできなくなると述べたのは、アメリカの心理学者マーティン・セリグマンです。M.セリングマンはこれを「学習性無力感」と名付けています。 ご自分を守って行く武器である感覚が麻痺してしまう状況が起こってしまうのです。
医療現場で取り組んでおられる医師や看護師の方々は、患者の命の尊厳に精一杯に応えるため、献身的に取り組むあまり、ご自分の感覚を抑圧してしまう状況に気がつけば置かれていることが多いいのではないでしょうか。また、医療現場は夜勤があったり慢性的な人手不足があったりと非常にストレスフルです。このように、医療現場は「学習性無力感」が発生しやすい条件が集まった環境と言えるでしょう。
ニュースやメディアでは、医療現場で従事されている医師や看護師の方々のメンタルヘルスの問題について多く取り上げています。
こうした環境は「学習性無力感」から燃え尽き症候群によるうつ病や適応障害、急性ストレス障害や心的外傷後ストレス障害発症の危険性と隣り合わせと言えます。
実際、医療従事者(医師や看護師等)のうつ病や燃え尽き症候群などの精神疾患罹患率は、年々増加しているとの報告もあります。
2021年1月28日の日本医師会COVID-19有識者会議は、コロナウイルス感染症拡大によって高いリスクがある医療関係者(医師や看護師等)のメンタルヘルス上の問題を指摘しています。そして医療関係者の自殺防止対策の必要性を以下のように述べています。
(1)医療関係者は、健康不安、不眠、精神的苦痛、バーンアウト、不安、うつ症状、PTSD、身体化、偏見を受けたことによる偏見を経験する頻度が高い
(2)感染へのリスクの高い業務に従事した医療関係者には、PTSDおよび精神的苦痛が認められ、特に若年、短い専門職歴、養育中、感染家族あり、長期隔離、実支援なし、社会からの偏見を体験した者にリスクが高い。
(2)モラル損傷
COVID-19のパンデミックでは、人工呼吸器やECMO(extracorporeal membrane oxygenation)による治療可能な患者数に限りがあるため医療が逼迫した場合、限られた医療資源の優先順位付けが医師に迫られるため、医療関係者のメンタルヘルス上の問題として、「モラル損傷」(moral injury)が発生する。
「モラル損傷」(moral injury)とは「臨床上で直面する個人の道徳・倫理規範を侵害する行為による心理ストレス」と定義される状態で、もともとは軍隊や退役軍人への支援から発展した概念でPTSDの問題と関連付けされている。
「モラル損傷」は、救急などの医療現場や初期研修のような場面が想定され、それはCOVID-19下の医療現場にも当てはまる。COVID-19治療にあたる医療現場における早期支援とアフターケアの必要性が指摘されている。
上記のようなメンタルヘルス上の問題があるにもかかわらず、海外と比べ日本は医師のメンタルヘルスへの支援の整備がされてないことを、日本医師会COVID-19有識者会議は指摘しています。
医療従事者の方以外にもこれらのことは介護福祉保育に従事される皆様も含め、バーンアウト(燃え尽き症候群)やうつ病の予防としてメンタルケアは欠かすことのできず、喫緊の課題となっています。
コロナ渦では行動制限によって、ストレス発散を困難にしています。やめたくてもやめられない悪い習慣(寝る前の飲酒、ネットサーフィン、鎮痛剤、睡眠導入剤の常用等)が常習化してしまう環境と言えます。
やめたい気持ちがあっても何故かやめられない。自分をコントロールできない状態が続き自己嫌悪を感じてしまう。 悪い習慣に依存することでストレスへの感覚痲痺は進行します。
心の奥底に沈んだストレスは、本来表面化しなければならない怒りの感情、抑うつ感を隠して、不眠、頭痛、腰痛、肩や首の凝りなどの身体疾患に置き換えてしまうかもしれません。
一般社団法人日本トラウマティック・ストレス協会の加藤 寛 氏 (JSTSS災害対応委員会委員長)は 『COVID-19パンデミックがもたらす心理的影響 トラウマティック・ストレスとの関連から』の中でコロナ渦で奮闘されている医療スタッフ(医師や看護師)のストレスを以下のように問題にしています。
「感染者の治療にあたる感染症指定病院の医療スタッフは、自らの感染リスクを感じながら、増え続ける業務に翻弄されますし、受診入院調整を行っている保健師たちは、検査や受診への不満を浴びせられ、感染者の搬送業務では感染リスクに直面し、感染者の不安や抑うつを聞くことをとおして共感疲労を抱えてしまいます。筆者は、クルーズ船の医療活動に参加しましたが、感染リスク、長時間の業務などだけでなく、情報不足、参加したことで生じた日常業務への影響、そして参加したことへの批判などで、これまでにないストレスを感じていました。これらは、災害救援者が被る惨事ストレスそのものであり、対策の必要性を認識しなければなりません。」
加藤 寛 氏のご指摘に加えて、医療現場では、コロナ感染患者受け入れのためのベッド数の確保を優先し、一般患者の受け入れを断念しなければならないため、過度の激務を耐え忍んでも給与の減収という考えられない事態を招いています。 また、感染対策のためのマスクや防護服の着用、消毒、病室の掃除など、コロナ以前では考えられなかった数々の業務が増えています。
院内感染にも気を使わなければならず、医師や看護師の方々の医療スタッフ間の会話、会食の禁止が実施されているため、医療スタッフ同士が日常会話として愚痴を言い合い、聞き合う場ももてないと聞いています。病院介護現場の慢性的な人で不足はコロナ以前から続いています。外食やショッピングも感染拡大防止のためにままならず、途方もなく巨大なストレスを誰もが感じている状況です。
感染させてしまうのではという不安と、もしも感染したらという危険や恐怖と隣り合わせの環境は、過度の緊張を強いられます。逼迫状態の医療現場ではベッドが確保できずに亡くなってゆく多くの患者の死を目の当たりにしなければなりません。
2019年末にあたかも突発性の大地震のように起こったこの状況は想定外の連続で、逼迫した医療体制下は巨大災害下の状況と酷似しています。医療現場は、加藤氏のご指摘のように「災害支援者が被る参事ストレス」に晒され、今後、この巨大なストレスによる医療従事者(医師や看護師の方々)のメンタルヘルスの問題と心のケアが求められていると実感致します。
2021年2月中旬より、最優先に医療従事者の皆様からワクチンが投与されると発表がありました。ワクチンそのものにも副反応などの不安要素は多々ありますが、コロナ収束の入り口が見えたような、何かほっとできる感覚をほんの少し感じてしまいます。 こうした安心感は人の無意識を解放します。
安心感は、無意識の中の処理できていないトラウマ体験の感情を、意識上に昇らせて統合処理をすると言われています。統合はたとえば夢や悪夢となって表現されます。意識と無意識のこうした運動を考えると、ワクチン接種以降の何らかの安心感によって、PTSDの症状が出現しやすくなると想定されます。それはフラッシュバックを頻発したり、怒りの感情が突如沸き起こるような表現になるかもしれません。
これらの表現は、自分に無理をさせないための心のメッセージだと感じることが体と心の健康には大切です。しかし、この感覚が麻痺したり鈍麻したりしますと以下のような精神疾患となって表現されるでしょう。
1.適応障害
(Ajustment Disorder)
DSM-5の診断基準
1. ストレスの原因が何であるか明確である。
2. そのストレス因から3か月以内に情動面又は行動面に症状が現れる。
3. 死別反応は含まれない。
4. 社会的、職業的、他の重要な領域に機能不全を生じる
5. ストレス因が終結すると、その後6か月以上続かない。
・急性:6か月未満
・慢性(持続性):6か月又はそれ以上
<症状の原因>
義務感、正義感、誠実さによる過剰な適応で心身のバランスが崩れるため
<症状の特徴>
抑うつ(落ち込み、絶望感、涙もろい)
不安(神経質、心配、過敏、分離不安)
素行の異常
<具体的な引き金>
職場、恋愛、経済的な問題
十分な休息とストレスの原因と距離を置くことで回復します仕事や学校をやめたいといった生活と環境そのものの根本的な見直しがすぐにはできないため慢性化してしまう。
2.心的外傷後ストレス(PTSD) と
メンタルヘルス
DV被害などの暴力、性虐待、戦争、事故、災害などの出来事に突如まきこまれたり、その被害や事故の様子を目撃することで、精神的ショックを受け、そのトラウマ体験によって日常生活が乗っ取られる様々なストレス症状が現れます。
<特徴的な症状>
診断基準となる症状の期間:下記の症状が1か月以上持続します。
※4週間以内は急性ストレス障害の診断されます。
●侵入症状
突如、外傷体験のフラッシュバックが起こり、不快な記憶が蘇る。パニック発作時の発汗や動悸が起きる。悪夢を頻繁に見る。
●回避症状
不快な出来事を過剰に回避します。その不快感を想起させる状況、人、五感を刺激するもの(臭い、音、色、味)、場所を避けます。
●認知と気分の陰性変化
トラウマ記憶に乗っ取られた悩は、人への不信感、自責の念、危険と絶望感に支配され一生涯幸福には生きられないという信念を形成してひきこもり、疎外感と孤独を感じます。
●覚醒度と反応性の変化
時には死の危険を伴う無謀な自己破壊的行動を取ったかと思うと、過剰な警戒心で神経が張り詰めています。小さな物音や声にも過剰に驚いたり、逃げたりします。トラウマに脅かされているため、集中力は低下します。現実味のある恐怖感やフラッシュバックに怯え、睡眠が浅く、覚醒状態にあります。
●解離症状
体から自分が脱け出して外部から傍観している離人感や世界が夢のようにぼんやりしていたり歪んでみえたりする現実感の喪失が起こります。
心的外傷後ストレス(PTSD)の場合は、適応障害とは異なり、ストレスの原因を明確にしてその因子を回避しても苦しい状況が続く場合があるかもしれません。戦場のトラウマの経験を経て来られた際の感情が、記憶と統合されていない事によるものです。
トラウマ体験の感情を自分自身とを統合する治療が必要となります。トラウマの過去を一つ一つ整理して行く事で、PTSDにまつわる症状は次第に影を潜めていきます。当相談室では短期間に安全な形で効果を発揮するFAP療法を用い、トラウマの問題についてアプローチさせて頂きます。
FAP療法を用いトラウマ治療を進めさせて頂く事で、日常の適応レベルを維持しながら、本来ある「力」を発揮し様々な問題にも対応して行く事が可能となります。そしてトラウマの問題から解放されると「これがほんとうの私なの?」という無意識から発信される楽しさや喜びの芽が開きはじめます。
※FAP療法の有効性についてはこちらをご参照下さいませ。
人はストレスにさらされていても、そのストレスを簡単には感じられない場合があります。そのストレスを漠然と「知っている」くらいの意識レベルでストップしていないと、職場環境や日常生活を乗り切れないからです。 医療従事者としてお仕事をされている中で「私がいないとこのチームは回らないし、、患者さんが、、とにかくやらなくては、、、」 このような声が頭の中に微かに聞こえ、からだは声に命令されたかのように自動的に動いてしまいます。
医療従事者としての強い責任感の声、道徳の声、サービス精神の声、伝統の声、献身の声、、、こうした「自分の中の集団の声」に支配されますと、自分を見失い、本来やりたくないことを過剰吸収して吐き出す方法を見失います。
この「私は~するべきだ」の声が慢性化しますと、自分の本当の気持ちに気づけず、相手にも伝えられなくなり、何かに操られたように負の方向に動いてしまいます。 「体も心も自分のものである筈なのに、わたしはわたしを喜ばせる方向に進ませることができません。ネガティブで憂鬱な方にどんどん向かってしまうでしょう。
こうして望まないことまで引き受ける体制が日常化しますから怒りの感情は蓄積してゆきます。けれども当人はその怒りを感じることができずに再び相手に接したりするため、抑うつ的になり、頭痛、肩こり、腰痛のようなうつ病の各症状を心ではなく、体の痛みとして表現していたりします。
メンタルヘルスの問題は、必ず対人的(対社会的)な問題です。心理カウンセリングはこうした問題を日常にない視点からアプローチして、当人に「気づき」を促します。そしてあなたの中の「~するべき」と「~したい」のバランスを整えます。
このご自分の心を「自分一人きり」でケアすることは非常に難しく、刺激物(お酒、ギャンブル、過食、インターネット、買い物、ゲーム、性活動等)に依存してしまう場合があります。「無意識」の声を刺激物(嗜癖)によって代用し続けることは、「本当は何がしたいのか」を見失わせ、刺激が消えると同時に不機嫌で憂鬱な状態に常に陥ってしまいます。
心理カウンセリングは単なる慢性的なストレス発散とは異なります。それは「~したい!」、「不快は回避する」、「無理はしない」というあなたの心の大切な声とあなたとが対話できるようにする作業です。心理カウンセリングはあなたの「才能」や「力」を活用して自由な生き方を発見させます。それはあなたの中の「~するべき」と「~したい」のバランスを整える作業となりますから、パフォーマンスの高い判断力を医療現場でも発揮できる手助けとなる筈です。
初回面接をご希望の方は、以下の手順にてお願い致します。
面接形式は「スカイプ」もしくは「お電話」でのご相談となります。
1・お申し込み手続き
お問い合わせフォームより、お申し込み手続きをお願い致します。
こちらのフォームに【医療従事者向けメンタルヘルスカウンセリング】とご記入して頂き、以下の2つの項目についてもご記載願います。
1)面接形式
2)初回面接希望日
2・スカイプ面接の手順について
お申し込みフォームを確認後、スカイプ面接をご希望の方にこちらからスカイプの認証メールをお送りさせて頂きます。認証のお手続きをお願い致します。
当日、お時間になりましたら、こちらからスカイプにてご連絡をさせて頂きます。
3・ご入金について
詳しくはこちらをご参照下さいませ。
【執筆者情報】
大塚 静子
資格
所属学会
経歴
研究実績
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著書
『甦る魂』はこちらをご参照下さい