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依存症

依存症(やめたくても、やめられない)とは

依存症は、思考や行動の支配権が依存対象に奪われてしまう精神疾患です。自由は失われ、仕事中や人との会話、公衆の面前で何かを発表するような場合であっても、思考や行動の優先権は依存対象となってしまいます。思考行動妨害症と名付けたくなるような精神疾患なのです。 

 

ところで衣食住は人間が最低限度生活をする上で不可欠な要素ですが、依存症が高じると、衣食住よりもアルコールやギャンブル、買い物などの依存対象が、生活の優先順位のトップになってしまいます。優先順位誤認症と名付けたくなる精神疾患でもあります。

 

例えば、ゲーム依存では食事や睡眠を削ってまでゲームに熱中し自室に籠りきりになり、社会との接点を失ってしまうなどの事例もあります。ギャンブル依存のために家族に嘘をついてまで借金をしてしまう事もあります。

 

肺がん原因の喫煙によるニコチン依存も、普通に考えれば悪い影響だけしかないにもかかわらず、簡単にやめることはできません。依存対象に束縛されている不自由さに依存症者は気がついてはいます。

 

しかしその支配から抜け出すことは喜び(非生産的な)を手放すようなもので、害があろうが死を招こうが反社会的であろうが絶対に手放しません。

 

仏教でいうところの執着の苦しみを、最もよく表現しているのが依存症のように思えますから、依存症者ほど悟りや気づきのすぐ近くにいる人たちかも知れません。

依存症(やめたくても、やめられない)と脳について 

喜びを感じる神経物質がドーパミンです。報酬系神経(A10神経)とも呼ばれ、中脳皮質辺縁系回路の活動が興奮すると放出される神経物質です。依存対象⇒想像力の一極化⇒喜び、このような循環を繰り返します。

 

依存対象に耐性や馴化(なれ)が生じますと、さらに強い刺激を求め、焦りやイライラを伴った盲目的な行動に没頭します。依存対象によってそれ以外の集中力が低下します。脳から過剰にドーパミンが放出されますと、理性や共感性を司る前頭葉の機能は低下します。

 

つまり、我慢ができず、社会性が失われます。依存対象だけしか眼中になく、依存対象以外の喜びに気がつけない状態に陥ってしまいます。 

遺伝因の依存症と環境因の依存症 

近年では、依存症は環境よりも遺伝にその原因があるとしている研究報告があります。それは、 rs11060736というゲノムDNAの塩基(SNP)の「C」という遺伝子です。このC遺伝子を持つ人はギャンブル依存を発症し易いという報告もあります。

 

C遺伝子の人がギャンブルで大当たりを経験すると、脳の喜びの回路が同じ刺激を求めて過活動を開始します。やがてその回路は停止しない回路へと変貌します。そのためギャンブルを長期間断ち切っていた人が、一回でもギャンブルをすればと再び依存症に戻ってしまうと言われています。 

 

環境因の依存症は、生まれ育った家庭環境の中の人間関係に生じたストレスやトラウマ体験、思わぬ事故や災害などが原因で発症します。それはPTSD(心的外傷後ストレス)の代理行動として依存対象を求めざるを得ない精神状態です。

 

両親のケンカを幼少期から体験している子どもが複雑性PTSDから過食依存がやめられない。けれども、過食嘔吐を繰り返すと、父も母も一致団結して家族内にふれあいや気遣いが生まれます。

 

あるいは、父親がアルコール依存症で問題を起こしていると、娘さんが母親に献身的で協力的になるため、父親は、節分の鬼のような役割を演じつつ、アルコール依存症をやっているようなケースが環境因の依存症です。 

 

環境と遺伝は重なり合うものです。アルコール依存症の父から虐待を受けた子が、成長して母となり子を授かったとき、母と子の愛着関係を度外視して遺伝的側面だけに注目してしまえば、そのカウンセリングはあまりにも殺伐としたものに感じられてしまうのではないでしょうか。

 

そのため、依存症の治療の場合、遺伝と環境の両方の視点を初回面接で聴取することが回復への近道となります。 

依存症(やめたくても、やめられない)の特徴 

以下の6つが依存症の特徴となります。 

 

①衝動性:熟慮に欠けた行動 

 

②反復性:やめられずに繰り返してしまう 

 

③強迫性:やらずにはいられない切迫感 

 

④貪欲性:どこまでも嗜癖して満足することがない 

 

⑤自己破壊性:人間関係の破壊と身体へのダメージ 

 

⑥自己親和性:やってはいけないと思っていても好きで仕方ない親しみある行動  

 

依存症(やめたくても、やめられない)と様々な依存対象 

依存対象は以下のように多岐にわたり、3つに大別されます。 

 

①関係依存

苦しい人間関係に依存します。 

 

アルコール依存症の夫婦関係に発生する依存症で、人間関係嗜癖とも呼ばれています。心身共に疲弊する苦しい人間関係の中に役割を見出します。夫がアルコール依存になり、社会生活や家庭で問題を起こします。

 

妻は飲酒を制止し、治そうとしますが、妻が治そうとすればするほど夫は飲酒による問題行動(酒乱で暴れるなど)を繰り返します。アルコール依存を治そうとする役割とアルコールに依存し続ける役割の悪循環な関係に依存し続けます。

 

別名では「共依存」と呼ばれ、依存症者(夫)をケアしたり、助言したりする妻(イネーブラー)の行為をイネイブリングと呼びます。このような夫婦関係の中で育った子どもには、摂食障害を発症するケースが多々あります。 その他の関係依存には、恋愛依存、セックス依存があります。 

 

DSM-5で分類されているパーソナリティー障害の中に、「依存性パーソナリティ障害」があります。関係依存の方には以下のような傾向が顕著であります。 

 

●「依存性パーソナリティ障害」 

 

分離不安が強く、面倒を見てもらいたい、しがみつく行為をその特徴としています。 

 

1.何かを決定するのに、他者からありあまるほどの助言と保証を必要とする 

 

2.責任感が欠如し、他者に責任をとってもらう 

 

3. 支持や是認を失う恐怖で他人の意見に反対できない 

 

4.自分の考えが欠如しているため、計画が立てられない 

 

5.他人から世話や支えを得ようと、不快なことも積極的にやってしまう 

 

6.自己ケアができない恐怖から、一人になると不安、無力感を感じる 

 

7.親密な関係が終わると、血眼になって別の関係を求める 

 

8.ひとりぼっちになって、自分が自分の面倒をみるその恐怖は、非現実的である。 

 

 

②過程依存 

 

●依存症対象

ギャンブル、買い物、仕事、インターネット、摂食障害、万引きなど自分にとって有害な諸々の行為 

 

特定の行為や過程に必要以上に没頭し、抜け出せなくなる症状の依存症です。 名前のとおり、ギャンブルや買い物の金銭や品物は眼中になく、それを獲得するまでのプロセス(過程)に依存します。多額の借金に至るまでのギャンブルをする、たくさんの高級品を買っても全く手をつけず、再びたくさんの買い物をするような行為を特徴とします。 

 

 

③物質依存 

 

●依存対象

アルコール、カフェイン、フェンシクリシン(大麻、幻覚薬)、オピオイド(鎮痛剤、睡眠薬、抗不安薬)、アンフェタミン系物質(コカイン、精神刺激薬)ニコチン(たばこ)身近なところでは、市販の鎮痛剤やコーヒー、お酒、たばこが挙げられます。 

 

●物質依存症の目安

上記のその物質がカバンからなくなる、冷蔵庫からなくなる、世界からなくなってしまうと考えた時の不安によっても測ることができますが、ひどい状態ですと、頭痛や手の震え、発汗、幻聴幻覚、焦燥感と怒りに襲われます。

 

物質によっては、それを手に入れようと様々な問題行動に発展する場合もあります。依存症者の体の中にこれらの物質は、依存症者への「報酬」として存在しているため、通常の使用方法とは異なった摂取をしています。

 

「報酬」は絶えず頭をよぎって、正常な思考の邪魔をしています。アルコールの場合は、ブラックアウトのような記憶が飛んでしまう記憶障害を起こすため、酔いがさめると暴力沙汰で拘置所にいたというようなケースもあります。 

依存症(やめたくても、やめられない)と DSM-5

DSM-5(精神疾患の分類と診断の手引き)による依存症は、物質関連障害及び嗜癖性障害群の中に分類され、以下の障害があります。 

 

・アルコール使用障害 

 アルコール中毒 

・カフェイン関連障害 

 カフェイン中毒 

・大麻関連障害群 

 大麻使用障害 

・幻覚薬関連障害群 

 フェンシクリジン使用障害 

・吸入剤関連障害 

 吸入剤使用障害 

・オピオイド関連障害群 

 オピオイド使用障害 

・鎮痛薬、睡眠薬、または抗不安薬関連障害群  

 

アルコール、カフェイン、鎮痛薬、睡眠薬、抗不安薬(安定剤)は、日常生活の中で簡単に入手することができる物質です。その過剰摂取が慢性化していても、ご本人は全く気がついていない場合があります。

 

その物質を数日やめてみて、何年にも味わったことのない、生き生きとした感覚でパフォーマンスを発揮される方も多くいらっしゃいます。

 

中毒とはいかなくても、1日に2,3回のコーヒー、あるいは1か月に1週間の鎮痛剤程度なら問題はないと思われている方も、試しに1か月の間、その物質を完全にやめてみることをおすすめします。

 

あの問題を解決していなかったがために、この物質がやめられなかったと気づかれることがあるかも知れません。

依存症(やめたくても、やめられない)と過剰摂取の原因 

心の安定性は「適度であること」から測ることができます。日常的に何かに過剰に没頭したり、何かを過剰に摂取したりすることで、朝の起床から夜の就寝までのリズムが乱れていれば、あるいは、対人関係でトラブルが起きていれば、つまり、有害であるとわかっているにもかかわらずやめることができないのであれば、それは「嗜癖(Addiction)」と呼ばれ、脳が喜びを求める機能を過活動させている状態に陥っている可能性があります。しかし、なぜ脳は喜びを過剰に求めるような原因を作ってしまったのでしょうか。 

 

 

脳が過剰に喜びを求める原因には以下のことが挙げられます。 

 

① 日常的なストレスの慢性化は当然なものであると 頭の隅っこで思っている自分に気がついていない。 

 

② 何をやっても不全感、空虚感しか感じることができない 

 

③ いつもネガティブな思考が支配し想像力に広がりがない 

 

 

①~③の状況に突破口が見いだせないと、簡単に手に入る手っ取り早い喜びや楽しみに飛びつくのは当然のことだと思います。

 

それはゲームやSNS、お酒、たばこ、ギャンブル、恋愛、薬物などであり、素早く当人を喜ばせますが、あっという間に上の①~③へと降下してしまいます。①~③の状態は離脱症状と呼ばれ、イライラや震え、怒り、不安と空虚感や抑うつが支配します。 

 

依存症(やめたくても、やめられない)と対象喪失 

「目標が達成した」 「引退の時がきた」 「以前のようには出来なくなってしまった」 

 

スポーツ選手や職人、アーティストが加齢による体力の衰え、怪我や病気のために生きる目標や技を喪失してしまうと、極度のストレスから過剰にかつての喜びを再演しようとします。

 

薬物やアルコールに嗜癖する芸能人やスポーツ選手に限らず、子育てに夢中になっていたお母さんが子どもの独立とともに目標を見出せない、部署配属が変わったご主人がかつてのキャリアが新しい部署では全く役に立たず、入社1,2年目の若手トレーナーのもとで働く環境なども、「かつての喜び」を求めて過剰暴走する引き金になりかねません。燃え尽き症候群によって依存症を発症する場合もあります。 

 

以下は、引退後のスポーツ選手を対象にした精神疾患の発症率の調査結果です。 

 
・抑うつ症状や不安障害       39% 
・摂食障害                      42% 
・アルコール依存              32% 
・自尊心の低下                 5% 
・喫煙の習慣                   12% 
・燃え尽き症候群              15% 

・何らかの苦しみ              18% 

 

元選手への調査結果 FIFProのプレスリリース「STUDY: MENTAL ILLNESS IN PROFESSIONAL FOOTBALL」より(2014年4月2日発表 エキサイトニュース) 

 

アルコール依存、喫煙を依存物質と考えた時、そのパーセンテージの合計は44%にもなります。 

依存症(やめたくても、やめられない)と想像力 

トラウマ体験のある人は、危険、不快感、苦痛、恐怖、怒りなどを覚えると覚醒して元気に見え、これらの負の感情を感じていないと空虚感に襲われてしまうと言われています。

 

頭の中に何も浮かんでこない空虚感、未来への設計図も描けない喜びを失った状態は、喜びの神経伝達物質ドーパミンの放出を今すぐにでも欲しくなり、依存症者の脳の状態に近いと言えます。それは想像力が完全に依存対象に乗っ取られた状態です。 

 

想像力について、ヴァン・デア・コーク博士は以下のように述べています。 

 

*「私たちの創造性に火をつけ、退屈を紛らし、痛みを和らげ、喜びを強め、ごく親密な人間関係を豊かにしてくれる。」 

 

**「人は有無を言わせずひっきりなしに過去へ、最後に強烈なかかわりや深い情動を感じ たときへと引きずり戻されていると、想像力が働かなくなり、心の柔軟性を失う。 想像することができなければ、希望も、より良い未来を思い浮かべる機会も、 行くべき場所も、到達するべき目標も持ちようがない。」 

 

(『身体はトラウマを記憶する』 ヴァン・デア・コーク著 柴田裕之=訳 杉山 登志郎=解説 紀伊國屋書店  P36 2行目~3行目)と (P36 3行目~6行目) 

 

つまり、想像力を侵害されると才能は枯渇してゆきます。空虚感に支配されます。 トラウマ体験のフラッシュバックに支配された想像力の中にいると「社会という場所は柔軟性がなく何も見出せない」という判断へ導かれます。

 

本来、何も見出せないような社会の中でも、健康な想像力さえ機能していれば、難なく乗り越えることができます。

 

才能とは、そんな身近なところにあります。しかし、何かに脅かされ、萎縮し、不安や恐怖が生活の根底に流れてしまっていることに気づかず、幼少期からその状態が当たり前と思っている方がいます。社会が悪い⇒それは意外にも、社会=自身のトラウマ体験であったりします。 

 

トラウマ支配から逃れたい、恐怖や孤独、抑圧している怒りから解放されたいという極度の心理的ストレスは、何かの代用が必要となります。すなわち、脳は報酬系の神経伝達物質を連続的に過剰に摂取しなさいという命令を出します。 

 

依存症(やめたくても、やめられない)と反復強迫   

依存症はその行動を観察すると、ある種の「反復強迫」行動と思えます。かつて精神分析学の祖G.フロイトは「反復強迫」をトラウマの再演と考え、その行動は抑圧された無意識のエネルギーを解放するものであるから、底をつけば回復につながって行く行動様式と述べていました。

 

しかし、安易に依存症にこの考えを当てはめてしまいますと、体に悪影響を及ぼしたり、精神的に疲弊するだけで改善しないことは明らかです。ましてや、遺伝因の依存症の場合ですと、悪化の一途を辿りかねません。 

 

複雑性PTSDやトラウマの研究者としてアメリカで活躍されるオランダ出身の精神科医ヴァン・デア・コーク博士は「反復強迫」について以下のように述べられています。 

 

***「反復はさらなる痛みと自己嫌悪につながるだけだ。実際、トラウマを繰り返し追体験するだけでも、執着や強迫観念を強化しかねない。」(『身体はトラウマを記憶する』 ヴァン・デア・コーク著 柴田裕之=訳 杉山 登志郎=解説 紀伊國屋書店 P61 2段4~5) 

 

「執着や強迫観念」の強化とは、まさしく依存症の特徴のひとつです。 

 

幼少期の虐待トラウマ体験や事故や災害、暴力、レイプなどのPTSDは、フラッシュバックのかたちをとって、トラウマ体験の過去の記憶が反復強迫され続けます。

 

 トラウマ記憶を反復想起させるフラッシュバックは、その強度のストレスから、何かに依存したくなる原因を作ることもあります。そのため依存症の反復強迫行動は、不快なトラウマを回避するための代理行動になっていることがあります。 

 

それゆえに、依存症者は幼少期の虐待によるトラウマ体験や事故や災害、暴力、レイプなどのPTSDを発症している可能性が強いため、トラウマ治療が必要となります。 

 

最近の研究では、依存症気質は、遺伝要因が環境要因よりも強く、先にも取り上げましたとおり、DNAからもそのことは証明されているという報告もあります。

 

しかし、依存症気質の親とその子の愛着形成という環境因から、依存症気質を受け継いだ可能性もあるため、一概に、「依存症は遺伝的なものだから、ドーパミンを抑制する薬を服用し続けてください」という治療だけでは、依存症者個人の人生や才能を度外視した治療と化す恐れががあります。

 

薬で人さまに迷惑を掛けない社会生活を送れるようになるということは、社会適用を目的とした治療になりかねません。 

 

もっとも、社会適応は非常に大切ですが、心理カウンセリングを受けていただくからには、本来生まれ持っている才能に気がつき、その才能を社会生活で発揮していただくことが、治療の目的となります。遺伝要因⇒薬の服用⇒社会適用の図式だけでは、依存症に悩む人の人生再考のきっかけを奪いかねないかもしれません。

 

 

(参考文献) 

 

* 『身体はトラウマを記憶する』 ヴァン・デア・コーク著 柴田裕之=訳  

 杉山 登志郎=解説 紀伊國屋書店  P.36  

** 同著 P.36 

** 同著  P.61 

 

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