コラム 2022/08/29 (月) 1:39 PM
・他者から必要とされたい
・他者から高評価を与えてほしい
・他者に気にかけてほしい
他者によって支配されている自分が「寂しさ」から観察できないでしょうか。
「寂しさ」には他者からの支配力があります。
上の3つの例文に、「絶えず」や「常に」、「いつも」を付けてみましょう。
・常に他者が私を必要としてほしい
・絶えず他者が私に高評価を与えてほしい
・いつでも他者が私を気にかけてほしい
どうでしょうか。
これらの心の状態は非常に生きづらくなるかも知れません。絶えず頭の中に他者を住まわせる状況を作ることになるかも知れません。頭の奥の方で人の声がします。ある他者のイメージが侵入してくるかも知れません。「素のままの私」は一体何処へ行ってしまったんでしょう。
物心ついたときから、「素のままの私」なんて感じたことがない。これが「本来の自分」を感じさせない感覚麻痺で、他者と私が常に融合することで、心の平衡を保とうとしますが、他者は私でないことはあきらかです。それは幻想であり、やがて空虚感や不全感、言い知れぬ寂しさに襲われます。
すると今度は寂しいあなたが他者を支配しようと無意識にリベンジを試みます。共依存と呼ばれる関係がここで成立するかも知れません。
共依存者は、自分独りの状態で自己の存在価値を見出せません。幼少期に親から「自我を発揮してはいけない」というトリックを仕掛けられています。親から依存されると無意識のうちに自己の存在に意味を見出します。親は子をコントロールし、自分の望む行動を取らせます。「お前のために」と言いながら、自分への利益をちゃっかり考える、そんなしたたかなエゴイズムのトリックかも知れません。
「絶えず」や「常に」は何かに没頭しようとアルコール、ギャンブル、ショッピングや人にしがみつくことを選択するかもしれません。
こうした依存対象は「私の好きなもの」や「好物」、「ご褒美」として、自分へのやさしさとして表現されます。
しかし、その「ご褒美」をたった今、取り上げられた状態を想像してみましょう。
例えば、
「大好きな○○が私の世界からとりあげられた!」
これの寂しさの正体かも知れません。そこに残るのは、イライラと怒りかもしれません。報われない気持ちかもしれません。何かがちっとも手に入らないという不全感かもしれません。深い孤独感を紛らわすために多動になったり、あるいは抑うつを感じたりするかもしれません。
つまり、寂しさは何かに没頭して多少とも我を忘れた状態でいなければいられない心理を抱えている心の状態といえるでしょう。
今ここにいる私自身を振り返りたくない。こんな私はダメにちがいない。みっともない。恥ずかしい。恐ろしい。不安だ、、、、。
素直さやストレートな感情を最もきれいで純粋に表現できる時期は幼少期かも知れません。
健康な親はその純粋無垢さに子への愛おしさや可愛らしさを禁じえないでしょう。しかし、過去に親からの虐待経験によって問題を抱えた親は、子どもの天真爛漫さや純粋無垢さが受け入れられず、怒りさえ感じるかもしれません。親はそんな悪魔の部分を持つ自分にさらにストレスを感じ、子は親のこうした葛藤の原因を自分がいるからだと解釈します。
・お母さんには控えめでいよう・・・
・お父さんには遠慮しよう ・・・
でも子どもらしいところも見せないと親をバカにしているように思われる。これが至難の業です。太宰治の『人間失格』の主人公葉造は、父から仕事で東京に行くがほしいものはないかと尋ねられ、本当に何もほしいものが浮かばず、子どもらしさを演じることに失敗し、父という「人間」からどんな仕打ちを受けるのだろうかと恐怖します。
それを挽回しようと、父の手帳にこっそりと「シシマイ」と記入します。「シシマイ」は別に欲しくもないオモチャだったのですが、東京から戻った父は息子のこの「控えめさ」に感激し大喜びする場面があります。
遠慮や控えめさは自己否定や自己欺瞞へと向かいます。本来の自分を手放して自己への感覚麻痺が高まると、他者が評価してくれた時の自分だけが自分という実体への手ごたえある感覚となってゆきます。他者の評価とは、言い換えれば、子が親からの怒りや虐待を回避する手段であり、自分に怒りの矛先が向かわないための親の安定状態を保つための手段ともいえるのです。
自己否定は不自然な居心地の良さや安心感を覚える場合があります。
自己否定が居心地が良いとは
・きっとまた私はハズレくじを引く
・私はダメだから人一倍頑張らないと
・私がいるとみんなに迷惑ばかりかけてしまうから
これらの自己否定感情は、ある種の消極的な自暴自棄と表現できるでしょうか。
エスカレートしなければ、過剰でなければ誰も私を振り向かないという信念を失ったら、私は誰からも振り向かれなくなってしまう、、、という不安は自己否定の方法に創意工夫を凝らします。
それは「人を驚かせなければ」や「人を喜ばせなければ」という創意工夫であり、時には社会的に評価されたりする場合もあります。しかし、エスカレートすると自己否定のための手段を選ばなくなり、時には道徳や責任を無視し、反社会的になり、みんなを圧倒します。こうした行為が高じてゆくと、人にまたかと思われて、当人は疲弊し、他者はもう振り向かなくなります。反社会的な行為をyoutubeにアップしているケースをよく目にしますが、一攫千金よりも根底にはこのような心理が働いているのかもしれません。
「自分の自然な状態など居心地が悪い。私が「ありのままの自分」でいることをみんなはよく思わないし、他人の評価がなければ私は空っぽの実体のない空気以下の存在なんだ」
こうした信念が、寂しさを持続させ、頭の中は他者の願望や他者の笑顔、他者の嬉しいで支配されますから、心の中に自分の居場所などわずかになってゆきます。
絶えず他人が振り向いてくれる状況は、絶対に手に入らない幻想でしかありません。
親密さや人への共感能力に価値を見出せない精神障害には、ASD(自閉症スペクトラム障害)など発達障害、孤独や一人を好む傾向のシゾイドパーソナリティ障害があります。
これらの障害をもったパートナーを伴侶とした場合、一方(妻あるいは夫)は言い知れぬ深い孤独感に悩むかも知れません。出会った当初は個性的で無口で独特の雰囲気がある魅力的な人と捉えています。いつかこの人にも親密さや愛される喜びがわかる時が来るはずだし、その親密さの価値を教えるのが私の役目であると一方(妻あるいは夫)は感じますが、何年経っても一向に変化が訪れません。いつしか深い孤独感と寂しさが、自分のパートナーになっていたりします。
夫または妻と情緒的な相互関係が築けず、配偶者やパートナーに生じる、身体的・精神的症状はカサンドラ症候群と呼ばれています。カサンドラ症候群を克服するには、他者と自分の価値観の差異、独りでいられる自我の成熟、私が本来の私の「~したい」を知ることが克服への手掛かりとなります。
自分の内面を観察し、「私は~したい」を発見し、具体的な行動へと向かうには「内省する力」が不可欠かも知れません。
自己否定によって自己に控えめで遠慮することを訓練されたアダルトチルドレンと呼ばれる人たちは、内省にも遠慮が働きがちとなります。
「内省する力」が機能しないと、他人中心の世界に振り回されることになります。それは単なる愛や親密さの幻想であり、他者を攻撃したり批判したりすることが解決方法であると勘違いします。本当の自分が求めるものとの出会いを先延ばしにします。では一体、何が私の内省力を妨害しているのでしょうか。
本当の自分と出会わないほうが、その組織(家族)は安定していたのかもしれません。虐待トラウマには皮肉にもそんな効用があるかも知れません。家族はあなたのトラウマによって無意識に安定しようとします。あなたがあなた自身の才能を発見し、自分の感覚を取り戻し、独りでも安定して生きていける力を獲得した時、他者や寂しい感情に振り回されることは消えてゆきますので、寂しさの問題にはトラウマ治療が不可欠となるかも知れません。
当相談室では、FAP療法を用いることで、過去のトラウマの恐怖を詳細に思い出さず、安全な形でトラウマ治療をご提案させて頂いております。
「この寂しさは過去のものだ。もうこれ以上は、今ある現在の自分を寂しさに支配させない」
このように、「過去」を「過去」として「現在」に統合し、活躍できる「未来」を提供することがカウンセリングのゴールとなるかも知れません。
話を聞いてもらったり、願い事を聞いてもらっりした共感の経験は、「自分は自分のままでいいのだ」という自我の安定を形成してゆきます。C.ロジャースはこれを「共感的理解」と呼んでいますが、この共感的理解を相手ではなく、自分に反射(リフレクション)させることで自己の感覚麻痺は改善しますから、この部分はカウンセラーの力量が問われるころかも知れません。
また、クライエントさんの勘違いや思い込みを頭ごなしに否定するのではなく、どうしてそう思われたのかに関心を持って傾聴することをC.ロジャースは、「無条件の肯定的関心」と呼びました。無条件の肯定的関心は、母子関係でお母さんが子どもにとって安全基地になる安定型の愛着を形成する条件となります。
幼少期に虐待やネグレクトなどで母との安定した愛着を育むことが難しかった方は、見捨てられ不安という形で強い寂しさを表現しています。寂しさに襲われ、再び他人への獲得できない空しい幻想を期待する前に、自分を内省しながら「無条件の肯定的関心」を心理カウンセリングの面談で感じてみることが根本的な改善へとつながって行きます。
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