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コラム:発達性トラウマ障害

コラム   2025/09/07 (日)  1:08 PM

発達性トラウマ障害:小児期の逆境的体験?自分すらもそれを逆境とは思ってくれない

 

 

発達性トラウマ障害(Developmental Trauma Disorder:DTD)は、小児期から続く家庭内の慢性的なトラウマ体験は異常ではないというクライエントも含めた家族全体の判断に気づきを与え、その認知の歪みやトラウマ治療に集中するために作られた診断名でありその基準になるものと思えます。

 

養育者の暴力、身体的虐待、性虐待、依存症の親が養育費を入れない、子どもを養育放棄したまま何日も帰宅しない母親、食事を与えない、体罰への疑問すら抱かず子どもに守れないようなルールを順守させる、親の子どもへの無関心、親が子どもの活躍に腹立たしさと嫉妬心が渦巻き否定ばかりするなど

 

こうした行動や態度を取る親の下では、これらの体験を逆境とは思わせず、子どもは「私が僕が悪いんだ、みんなに迷惑を掛けている」という認知の歪みを与えられるか、無力感から解離症状のまま思春期を過ごしている場合があります。また、世間はこの人がそんなに過酷な生活を強いられていいるとは微塵も思っていない場合が多く、教師や友人、近所の人にも不思議にすら思われていない場合が多くあります。精神科医や臨床心理士、公認心理士ですら気がつけないほど、発達性トラウマ障害の患者さんはこの問題を隠すのが上手で巧妙です。

 

このような孤独な状況に、精神疾患の診断にもしも誤った診断名がつけられたりしますと、さらにこの症状は見過ごされたまま、人間関係が辛く、さらに社会適応の困難な状況に陥ってしまうでしょう。

 

今回は、こうした状況を予防するための発達性トラウマ障害についてお話してゆきます。

 

発達性トラウマ障害:精神医学の診断名と社会適応重視で見過ごされるトラウマ治療の問題

 

日常的にケンカ、虐待、ネグレクトなどが頻発する家庭環境で育った子どもたちは、トラウマ体験があってPTSDの症状を持っていても、生きてゆくためにその家庭に過剰適応します。それは子どもの安心安全な環境整備と健やかな心と体の成長を二の次にして、社会適応ばかりを急がせる状況を作り、不登校や引きこもりをさせません。

 

また、親はその引きこもりや不登校、出社拒否にきびしく、社会性と生産性のない子どもに対して非常に強く不安を感じ、怒りをあらわにします。親の不安が子どもを急きたてて精神科クリニックの門を叩くと、診断名を与えられて薬物療法でひとまずは社会適応をができて、世間的にも親の安心のためにもどうにか体裁がととのいますが、自分のこの心の状態は薬で麻痺した奥底で、これでは自分が報われないと叫んでいませんでしょうか。その際に下される診断名には以下のようなものが挙げられます。

 

 

PTSD不安障害うつ病、適応障害、反応性愛着障害、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、素秩序破壊的・衝動制御・素行症群行障害に分類されるいくつかの反社会的な障害群や過食症や拒食症の摂食障害群、統合失調症など 

 

 

しかし、小児期の逆境的体験によって形成されたPTSD症状やトラウマの問題は、無関係な診断が下されてしまうことが非常に多いといわれています。クライエントの症状の一部分が拡大されたり、家族構成員システムが有する病理がクライエントをスケープゴート化していることを医師やカウンセラーが見逃すと、無関係な診断名は独り歩きしてしまうかも知れません。無関係な診断名のための薬の治療は、クライエントが社会に適応するためだけの効果しか見込めないこともあるでしょう。

 

 

また、自分には違和感が強すぎる社会に無理やり適応するということは、トラウマ治療を見逃して、機能不全が依然続いている家庭環境の中で、危険にさらされている現状を維持させることになりかねません。患者の訴えよりも無関係な診断名や家族のクライエントに対して持っている負の家族システムを優先させるあまり、拘束や監禁のような措置が精神科の病院では過去に多くとられてきましたし、現在、この問題は解決済みなどとは到底言い切れません。 

 

 

ここには生きづらさに苦しむ患者の人権を後回しに、その患者を取り囲むシステム(家族 学校 社会)を最優先にする、患者の行動制御の治療となりかねない問題があります。 

発達性トラウマ障害:小児期の 慢性的トラウマ体験を正確に診断するための診断名と診断基準

 

 

無関係な診断名とそれによる社会適応優先の治療がおこなわれてしまうのは何故でしょうか。 

 

こうした問題に待ったをかけて、診断基準の見直しを提唱したのがオランダ出身のアメリカの精神科医であり、ニューロフィードバックという治療法で脳科学の視点からトラウマやPTSDの治療を開発したベッセル・ヴァン・デアコーク博士です。 

 

 

現行の診断システムがトラウマを診断する場合には以下の問題があると指摘しています。

 

 

・診断が下されない 

 

・複数の無関係な診断が下される 

 

・行動の制御に重点が置かれる 

 

・症状の根底にある発達上の問題を改善する視点が欠けている 

 

 

ヴァン・デア・コーク博士は、小児期の慢性的なトラウマ体験への効果的な介入措置を開発・活用してもらうために、発達性トラウマ障害の診断を導入しました。 

 

 

ヴァン・デア・コーク博士らおよそ12名が作成した「発達性トラウマ障害(Developmental Trauma Disorder; DTD)」の診断基準はAからGの7項目からなります。

 

対象年齢は幼少期から18歳未満となります。 

 

 

A.暴露:逆境的出来事の複数または長期間(最低でも1年間)の経験または目撃 

 

A1.人からの繰り返される暴力で過酷な体験あるいは目撃がある 

 

A2.養育者の再三の変更、分離あるいは過酷で執拗な情緒的虐待による保護的養育の妨害 

 

 

B.感情的・生理的調節不全:最低以下の2つを含む 

 

B1.極端な感情状態(恐れ 怒り 羞恥など)を調節できないなど 

 

B2.身体機能調整の障害:睡眠、摂食、排せつの障害、音や接触に敏感または鈍感、 別の行動へ移行すると混乱する 

 

B.3感覚と情動と身体的状態の自覚の減少/解離 

 

B4.情動または身体的状態を説明する能力の障害 

 

 

C.注意と行動の調節不全:以下のうち最低3つを含む。注意の持続、学習やストレスの対処の発達能力障害を示す 

 

C1.脅威に心を奪われる。安全と危険の能力障害 

 

C2.自己防衛能力の障害。危険やスリルの追求 

 

C3.自己慰撫の試み。身体を揺する(ロッキング)、衝動的自慰 

 

C4.自傷行為 

 

C5.目的行動の開始や継続する能力の欠如 

 

 

D.自己調節と対人関係の調節不全。最低以下の3つを含む 

 

D1.養育者または親密な人が安全かどうか関心を抱く。または、離別すると次の再開を許容しない 

 

D2.自己嫌悪、無力感。自分は無能であるという感覚 

 

D3.成人や同輩との人間関係に極端な不信感と抵抗、助け合う行動が欠如している 

 

D4.同輩、養育者、その他の成人への身体への攻撃、言葉での攻撃 

 

D5.親密な接触を得ようとする、安心安全のための過剰な依存 

 

D6.他者の苦しみへの共感または寛容性の欠如、またはそれを調整する能力の障害 

 

 

E.心的外傷後スペクトラム症状。

 

3つのPTSD症状クラスターB,C,Dの中の2つで 最低一つの症状がある 

 

 

F.発達性トラウマ障害の基準B,C,D,Eの症状が最低6か月持続している 

 

 

G.機能障害が以下の領域で最低2つある 

 

学業 家庭 同輩集団 法律 健康 職業 

 

発達性トラウマ障害:逆境的小児期体験とは  

 

境的小児期体験( Adverse Childhood Experiences、ACEs)とは、18歳未満までの間に日常的な危険、虐待、不適切な養育を長期間受けてきた体験を指して呼ばれています。

 

常に心的外傷に脅かされる家庭環境は、成長を妨げ、生きづらさの大きな原因となる体験でもあり、あまりに自己肯定感を奪われた体験が慢性化しているため、よく生きることや楽しむことに違和感や遠慮、怒り、羞恥心、悲観、怯えなどを感じやすくなってゆく体験として心に刻まれます。 

 

1998年のフェリッティ(Vincent J.Felitti)らによる研究(ACE study)では、逆境的小児体験が多いと認知・情動・社会性に問題を抱えやすくなり、その後の発達に悪影響を及ぼすことを証明しました。代表的な逆境的小児体験には以下の2つが挙げられています。 

 

①虐待(身体的、心理的、性的、ネグレクト) 

 

②機能不全家族(家庭内で親が依存症や精神疾患、犯罪者である)

 

発達性トラウマ障害:逆境的小児体験の質問票とFAP療法の有効性

 

カリフォルニア外科医臨床諮問委員会 によって作成された逆境的小児体験を調査診断するための質問票改訂版10項目では、人間関係や幼少期の体験が、健康や幸福感に影響を及ぼす項目として以下の10項目を挙げています。 

 

 

・十分な食事が与えられない、衣服が汚れている、あるいは守ってくれる人や 世話してくれる人 がいないと感じた。 

 

 ・離婚、育児放棄、死亡などの理由で、親をなくした。  

 

・うつ病、精神疾患、自殺者未遂をした人と生活していたことがある。  

 

・アルコール中毒や薬物中毒(処方薬を含む)を患っている人と生活していたことがある。  

 

・家にいる親や大人が、お互いに突き飛ばしたり、殴ったり、叩いたり、あるいは危害を加えたり、 脅したりしたことがある。 

 

 ・収監された、あるいは実刑判決を受けた人と生活したことがある。  

 

・家にいる親や大人が、あなたを罵ったり、侮辱したり、けなしたことがある。  

 

・家にいある親や大人が、あなたを叩く、殴る、蹴るなどの肉体的な暴力を加えたことがある。  

 

・家族のだれからも愛されている、あるいは特別な存在だと思われたことがないと感じる。  

 

・自分が望まない性的接触(愛撫、あるいは口内/肛門/膣内の性交/挿入など)を 強制されたこ とがある。  

 

これら項目に対する「はい」と答えた合計点が逆境的小児体験のスコアとなります。

 

 

最後に、上記項目の経験があなたの健康を害していますかとの問いあり、 回答者が「そう思わない」 「そう思う」 「非常にそう思う」のいづれかで答えるように作られています。 

 

家庭という密室で起きた小児期の逆境体験への強い羞恥心や絶望感、孤独感、養育者から与えられた理不尽な罪悪感と恐怖などの苦しみは、誰もが感じて当然ですし、外部へ相談することへの強い拒絶もあって当然ですが、あなた自身の力である心の中のほとんどのエネルギーは、感覚を遮断したり、解離したり、不快に過剰適応したりすることのために使用されています。その心的エネルギーこそ本来の自分が求めるものにダイレクトに使用されなければ、あまりにも理不尽です。

 

 

FAP療法は、暴露療法のような逆境体験への抵抗を言語化したり、認知行動療法のように歪んだ考えを意識的に修正してゆく治療とは異なります。抵抗への意識化や言語化は最小限にとどめた治療のため、苦痛も少なく逆境的体験のトラウマに有効に働きます。 

 

 

ACEの質問票改訂版の最後には以下のような言葉があります。 

 

 

「幼少期の経験は、その人の人生の一部です。 人生の傷を癒すには多くの方法があります。」 

 

あなたにとって、FAP療法もその方法のひとつになっていただければと思っております。 

 

 

●カウンセリングをご希望の方は、こちらをクリックしてください。

 

●カウンセリングの具体的内容について(はじめての方へ)を掲載致しました。

ご興味のある方はご参照下さいませ。

 

【執筆者情報】

 大塚  静子

 

資格

  • 臨床心理士(NO:18162)
  • FAP療法上級資格取得

 

所属学会

  • 日本臨床心理学会
  • 日本ブリーフサイコセラピー学会
  • 国際トラウマティックストレス学会
     (International Society for Traumatic Stress Studies)

 

経歴

  • 2005年 アライアント国際大学/カリフォルニア臨床心理大学院 臨床心理学
    修士課程卒業
  • 2005年7月 アルコール依存症専門病院、周愛利田クリニックにて依存症治療に携わる。
  • 2009年7月 アダルト・チルドレン第一人者の斎藤 学先生運営のIFF・CIAP相談室勤務。家族臨床、トラウマ治療について研鑽を積む。
  • 2014年7月 横浜にてカウンセリングルーム・グロース設立。
  • 2015年4月 浦和大学 総合福祉学部 非常勤講師 「心理療法」,「精神保健学」担当

 

研究実績

研究実績はこちらをご参照下さい

著書 

『甦る魂』はこちらをご参照下さい

 

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