コラム 2022/07/20 (水) 7:41 AM
人間からいじめを受けること。 それは不当で、人格や人権を無視した行為です。まるでこの人間世界から、一切の味方や理解者が失われ、笑顔、喜び、楽しさ、生き甲斐、希望、自由、表現などが剥奪されるかわりに、辱め、暴力、束縛感、無視、命令で作られた壁で包囲し、いじめ被害者を監禁し、苦役を担わせます。
いじめを受けた当事者は、その被害を相談する場所がもちろんあります。なのになぜ、いじめ被害を訴える公共機関や親、先生にすぐに相談せずに、壁で包囲され自分の殻の中に閉じこもっているのでしょうか。人間から恐怖を受けた人は、人間に相談したい気持ちなど起こらないのは当然かも知れません。そして加害者への恐怖心から被害者の表現力は萎縮し、相談相手に十分伝わらないことも多くなるでしょう。
またいじめを受けた当事者は決してプライドを失いません。信じられない人間たちに相談などせずに、何とか自分で解決したいという意志と誇りを持っています。いじめを受けた当事者はいつか終わりが来る筈だと耐え忍んでいますが、限度を超えると不快な出来事を意識から遮断し、凍結してしまうかも知れません。
突如、そのトラウマがフラッシュバックとして表れたり、解離症状や感覚麻痺として表れるかもしれません。しかし自力で「この修羅場を乗り越えてやる」という結果、産み落とされた症状なのです。
一般の人には耐えることができない孤独な地獄の期間を克服するために対処した方法なのです。彼ら彼女らの、このいじめに対する対応は、いじめ加害者集団と戦わなければならない途方もないエネルギーが浪費されてしまうかも知れません。
なぜいじめを受けたと当事者は控えめにしか自分を表現せず、しかも平静でいられるのかと感じた時、聞き手はこうした心理に気がつかなければなりません。
この修羅場を乗り越えようとする、いじめを受けたと当事者の超人的なエネルギーを、当事者自身の人生にとってよい方向に活用すること、つまり、この才能に気がついて自己肯定感を持ってもらうことがトラウマ治療目標となります。過去のトラウマに支配されず、ご自分の中にある力を見つけて行く事が、大切になってくるかも知れません。
長期間にわたり、虐待、ネグレクト、暴力などを受け続けた経験によって心に深い傷を負うことで、日常生活のパフォーマンスが下がり、自分自身の能力を発揮できず、いわゆるフラシュバックによって、いつまでも不快な過去が頭の中で支配している精神疾患が複雑性PTSD障害です。
人からケアや保護も受けられず、自分に味方してくれる人もいない。大勢の集団によって日常的に罵倒や暴力、嫌がらせ、嘲笑、辱めを長期的に受け続け、ご自分ひとりの力ではどうすることもできない状況を過去に経験すると、心の傷などということばでは表現できない苦しみが心に残ってしまうのです。
その苦しみには恐怖と不安が常駐し続け、「今ここにある私の状態」を教えてくれません。過去のトラウマに支配されてしまい、そのフィルターで今現在の自分を感じてしまうことから、未来のご自分の姿を思い描くことができなくなってしまうのです。本当にご自分がやりたいことが見えない状態に陥ってしまうのです。
●覚醒亢進の状態
フラッシュバックや過覚醒、警戒心、不眠、集中困難、突然の怒りや自暴自棄な振る舞いなど。
●回避
トラウマを与えた状況や場所、人などを避ける
●解離症状
記憶障害や自分が自分でない現実感喪失など
●いじめの認知件数
・小学校 122,721 件(前年度 118,748 件)
・中学校 52,969 件(前年度 55,248 件)
・高等学校 11,404 件(前年度 11,039 件)
・特別支援学校 963 件(前年度 768 件)
・合計 188,057 件(前年度 185,803 件)
(出典:文部科学省の公式ホームページ 平成 26 年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」における 「いじめ」に関する調査結果について)
上のデータは低年齢であればあるほどいじめの件数が増加していることを示しています。 いじめには善悪の判断が未熟な段階の幼少期に、道徳的判断よりも恣意性が子どもの心を支配した状態と言えるでしょう。
善悪などの道徳的判断は、社会性の原点である親との関係やコミュニケーションによって発達してゆきます。安定した親子関係が成立しない家庭環境で、子どもたちはストレスに晒されます。
子どもは自分の家庭環境から自立して易々と別の家庭環境に移行できませんし、親を選べませんから、子のストレスは当然長期化してゆきます。その長期化するストレス解消がいじめに発展してしまうかも知れません。
虐待、ネグレクト、養育放棄のパチンコや飲酒三昧の依存症を抱える親、うつ病などで寝たきりの母を気遣うヤングケアラー等々。こうした環境に置かれた子どもは、そのストレスを学業やスポーツ、芸術などによって解消できれば美談になりますが、親自身が子の才能に無関心だったらどうでしょうか。
子どもは評価されない世界でさらなる強いストレスを感じますから、子はいじめを選択せざるを得ない状況に追い込まれてしまうのではないでしょうか。
家族という単位のシステムの中で、不安、怒り、皮肉、恐怖、精神疾患などの問題を持った親の抱えるストレスは子どもに影響を与えます。親のストレスが子どもの心に蓄積した時、こどもはストレス解消にいじめ行為を選択する可能性は無きにしも非ずかもしれません。
あるいは、親の抱えるストレスの受け止め担い役をしなければ、家族が安定しないことを察知している子どもたちは、自己を表現するよりも我慢や忍耐が先行します。親のストレスが子どもに当たり散らす、子どもを無視する、虐待をするなどの行為であれば、子どもは自己肯定感を失ってゆくでしょう。
自己肯定感を持てず自己を表現しない我慢と忍耐の子が、ストレスの多い欲求不満の子と出会った時に、いじめに巻き込まれる可能性は十分にあるかも知れません。いじめ加害者は、親のストレスをそのままもらいます。いじめ被害者は親のために良い子を演じます。
いじめ加害者も被害者も共に、自分を理解してくれる人を失い、かつ自己評価に飢えた状況にいるのかもしれません。つまり、いじめとは家庭内の親のストレスを再演している行為と捉えることができるかも知れません。
子どもは自我の発達段階にあります。少数よりも多数、力が強い、頭が良いなどの価値観の平均的なことが正常値であるというわかりやすい価値観に安心感と信頼を覚える傾向があるかも知れません(ここには「出る杭は打たれる」という日本の文化的背景もあるでしょう)。
とりわけストレスの多い子どもは、「過度」であることは異常・異質ととらえる傾向があります。頭が良すぎていじめにあう、背が高すぎていじめにあう、身なりがおしゃれすぎていじめにあう、先生に良い子をアピールしすぎていじめにあう、ふつうすぎていじめにあう等々。
子どもがテストで100点をとっても、ストレスの渦中に自分を見失っている親は、子にこんな反応をしているかもしれません。
「見て!100点だよ!」
「まぐれでしょ?きっと、、、」
子どもはこの親の反応から以下のメッセージを読み取るかもしれません。
「わたしよりもお前がいい思いして、誰があなたを育ててると思っているの?」
評価しない、見捨てる、子に嫉妬心がある、子に皮肉ばかり言う、社会は厳しいところ、そんなのでは生きてゆけない!親の威厳を示そうと説教や訓示がはじまる。
言い換えますと、共感性の欠如です。複数の人が関係を持つ場所を社会と呼びます。社会はお互いの多様性を認めて理解し共感する場所です。親子間に共感性が乏しければ、相手の痛み、悲しみ、苦しみのセンサーも鈍化します。それよりも相手を攻撃したり、いじめを傍観する人たちには恐怖心や不安を与えて、集団を支配するほうが人々から評価されたと錯覚できるかもしれません。
多数派に属し自分は評価され万能であるという手っ取り早い幻想に浸れることを選択してしまうのは、親からの共感に乏しい見捨てられ不安の問題が見え隠れしてなりません。
他人の心を察知できない、自分の置かれた環境内での状況把握が不得手なため、周囲から勘違いされてしまうのが、自閉症スペクトラム障害の人たちです。
自閉症スペクトラム障害には以下のような傾向があります。
・会話が苦手で相手との興味、情動、感情が共有できない
・効率性よりも反復するルーティンの重視、変化を嫌う
・身振りや表情などの非言語的なコミュニケーションを理解できない
・仲間意識に意味を見出せない
・細部に執拗にこだわる
・感覚刺激に敏感あるいは鈍感
社会性や共感性に価値を見出せない自閉症スペクトラム障害も共感性の問題を持っているため、いじめのトラウマを体験しやすいといわれています。
過酷な環境にも過剰適応ができる人は、自分が自分にシャッターを下ろした状態でいることに気がつきません。自分を失った状態でいることが、あまりにも日常の中で当たり前になってしまったため、どんなに過酷で苦しい環境でも、あるいは人からひどく侮辱されても、常に不自然なやさしさと奇妙な謙虚さを保持していますが、冒頭にも書きましたとおり、そこには途方もなく大きなエネルギーが眠っています。
まずは、苦境に耐え抜いてた自分の力がここにあると感じて、自分にほんのちょっと驚いてみてください。そして、いじめのトラウマなど相談しようとは思わず、苦境に耐えているが、今一つ日常生活に生きづらさやパフォーマンスの低下をいつも感じていると思って、ご来室していただければと思います。
「どうしてこんな思いばかりで生きてきたんだろう?思えばずいぶん長い間、不快な考えや感情につきまとわれていたみたい。」
トラウマの黒い雲の割れ目から青空と共に、皆様の「ほんとうは私こうしたかったんだ!」が見つけられるように、治療に奮闘努力しております。
「いじめのトラウマ」とその背景について述べて来ました。
苦境を越え耐えてこられたけれど、その苦しみがトラウマとなってしまった場合、過去の苦しみが現在の日常生活や自由に生きる力を削いでしまうという事は良く起こります。
当相談室はトラウマ治療専門の相談室です。「ご自分の現在抱えている状況がどのような状況?」、また「どうして苦しい状況となっているのか?」等、トラウマ的な視点からカウンセリングをご提案させて頂きます。
また短期に安全な形で効果を期待できるFAP療法を用いながら、トラウマ治療をご提案させて頂きます。眠っている本来の自由に生きる「力」を取り戻していくカウンセリングをご提案致しております。ご連絡をお待ち致しております。
ご興味のある方は、こちらからご予約のお申し込み出来ます。
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