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コラム:虐待サバイバーの人たち

コラム   2023/02/23 (木)  4:47 PM

虐待サバイバーの人たち:安心した時ほど生きずらい!? 

 

虐待サバイバーとは、幼少期に養育者などからの虐待を長期間受けた結果、その成人後は虐待トラウマに苦しみ、社会生活において葛藤を抱えている人たちのことを指します。複雑性PTSDや解離性障害などと精神科医によって診断されていたりすることもあります。

 

当相談室ホームページの解離性障害複雑性PTSDについてはこちらから 

 

虐待サバイバーは、虐待をする養育者から解放されれば自由にのびのびと生活ができる筈では!?と一般に思われているかもしれません。しかし、それほど単純ではありません。 

 

「危険な人たちはいないんだから、安心して大丈夫」という状況は、虐待サバイバーたちにとっては依然として恐怖、不安、強迫症、解離状態、激しい感情の起伏などと隣り合わせです。こうした状態を予感しているので周囲にそぐわない異様な緊張感を帯びていたり、表情に乏しくぼんやりうわの空であったりするかも知れません。

 

我々はストレスや悩み、苦痛や悲しみから解放された状態を獲得すると、「めでたしめでたし」といって単純化したくなる傾向があります。その単純化によって勧善懲悪的なドラマやストーリーは誕生するのでしょうが、実際の世界は悪い状況から解放された時や「自由だ、安心できるぞ」と確認した時に、皮肉にも虐待サバイバーたちの苦しみははじまることがあるかも知れません。たとえば 

 

・経済的な安定:過去の貧困からの解放 

 

・就労の安定:安定した収入の確保 

 

・パートナーとの仲睦まじき安定:結婚生活や恋愛の安定期 

 

・健康への安心:自分について考える時間の獲得 

 

・安全な環境:実家からの解放、自立した環境 

 

このように安全であることに疑心暗鬼で、その安心感や安定感、安全が続けば続くほど、まるで自分の安全圏がどれほど確実に安全なのかを確認するかのように、虐待トラウマのフラッシュバックは安全圏を脅かす場合があるかも知れません。

 

逆説的ですが、フラッシュバックが起きる状況とは安全が確保された時です。つまり、ある程度の安心感は無意識や自律神経を弛緩させますから、リラックスと共に虐待トラウマのフラッシュバックが突如襲ってくるのかもしれません。 

 

家庭環境や学校などで幼少期は虐待やイジメを受けてきた挙句の果てに、解放されると精神疾患の様々な症状に脅かされるという状態は、身の置き場も見失うほど、その生きづらさは壮絶です。「死んでしまいたい」と思うのも当然かも知れません。 

 

虐待サバイバーにどうして「生き残り、生存者」を意味するサバイバーという言葉があてがわれたのか、生死をさまようその生きざまがすべてを物語っているかも知れません。そして、安心感を脅かされたことなどない多くの人間には想像だにできない次元の出来事であるために、虐待サバイバーもあえて理解されようとは思わず、孤独を抱えながらも自分の虐待経験を同じ虐待経験者へ発信しながら助け合い、それをパワーに変えて活躍されている方もいます。 

 

虐待サバイバーの人たち:脅しのイメージと怒りのコントロール 

 

 誰も知らない壮絶な苦しみを経験した人たちは、「私はこうしたい、こうなりたい」という健康な自己像を描けたときに、クリエイティブな能力が開花します。けれども、虐待やイジメの被害を受けると自己肯定感を持つことに抵抗が働きます。

 

「自分が肯定的だと世界は一斉に怒り出す」という脅しのイメージから解放されなければなりません。そのためには虐待トラウマによって解離している感情を統合する必要があります。「自己肯定的だとみんなは怒り出す」ではなく「自己肯定的になれないから私は怒り出す」に書き換えなければなりません。

 

虐待やイジメによって「怒り=自己主張」を長らく封印されると、自分の怒りが他人からの怒りに置き換わっています。その蓄積した怒りは微量でも星一つを爆発させてしまうのではと思えるほどのエネルギーをもっているかも知れません。

 

この怒りを傍若無人にまき散らして破壊してしまうと社会生活ではトラブルを招くことだけに終始してしまいます。貴重な才能は有効に使用されるべきです。それ故に、虐待サバイバーの人たちには、怒りのコントロールが非常に重要かも知れません。

 

怒りは、本来の私の能力が健康に美しく花開くための肥料として少しずつ使用されるべきです。怒りの微調整はトラウマ治療に非常に重要かつセンシティブな部分となります。 

 

待サバイバーの人たち:フラッシュバック

虐待サバイバーは虐待の加害者と距離を置き、安心した状況の中で、さあ自立して自分の生活をはじめようとすると、過去の価値観や習慣がフラッシュバックして襲いかかり、社会適応を困難にされたり、対人関係の混乱や悪化を招いたりしがちです。 

 

虐待トラウマのフラッシュバックに襲われると集中力が妨害されます。同じミスを何度も繰り返したり、強迫的に何度も同じことを確認します。就労の場、とりわけ一般企業内では虐待という問題を理解できる上司や同僚などいるはずもなく、たとえいたとしても自分の心の問題は安易に話せるものではありません。

 

かろうじて産業カウンセラーと連携しつつ、薬物の助けをかりながらの勤務となりますが、本来の能力は発揮できないまま「自分はこの職場で厄介者に思われている」と強い被害妄想から仕事に自信がもてない場合もあれば、虐待トラウマによって社会適応力が低下し、就労への不安と恐怖で引きこもりを余儀なくされる虐待サバイバーの方も多いかもしれません。 

虐待サバイバーの人たち:虐待サバイバーがパートナーのご夫婦間の問題 

 

虐待サバイバーの人たちは、虐待トラウマのフラッシュバックに襲われているところを見られて、自分のパートナーに不快な思いをさせてしまうのではという不安や気づかいから、お茶の間の団欒も楽しめずに自室に籠りきりで、家庭内別居のような空気漂う生活が夫婦葛藤の引き金になっていることもあります。 

 

安定しているかと思うと実は不安定、そのような生活は夫婦間のストレスにもなるため、衝動的に離婚や別居を決断する前に、自分が選んだこのパートナーは不快なものを見せまいと私のために努力してくれているけど、時々抱え込んで失敗してしまう時もあるんだ、もう一歩、このパートナーを理解してみたいという思いが大切です。

 

その時、あなたは唯一無二のかけがえのない存在へと変わってゆきます。そのお手伝いを心理カウンセリングは担っています。ご夫婦間のお互いの無意識を知った時、全体を理解しはじめた関係に変わってゆきます。すると虐待サバイバーの日常行動の不合理性が理解できます。 

 

虐待サバイバーの人たちをパートナーに選ぶ夫あるいは妻の傾向として、情や思いやりの深い方であることが多く見られます。「何か放っておけない」と世話を焼く方です。虐待サバイバーの人たちはこうした人たちをパートナーに持つと、幼少期を再演するために幼児退行する場合があります。

 

退行とは自己肯定感の芽のようなものです。ここでは全部が受容されるという肯定感が、蓄積して眠っていた怒りを解放しはじめたり、過去の養育者との虐待の関係を誘発し、再演させようとします。虐待サバイバーの起伏の激しい感情の波に翻弄されながら、パートナーは思いもしなかった自分の怒りの感情に襲われて、ショックを受けることがあります。

 

退行、怒り、虐待の再演、フラッシュバックや解離性障害にパートナーは振りまわされますから、その心労も大きく、パニック発作や過呼吸などの症状でパートナーが苦しくなる場合もあります。

 

また、こうした情の深い世話焼きパートナーの方は、イネーブラーの傾向があります。イネーブラーとは断酒できない状況をアルコール依存症者に与えてしまう妻あるいは夫のことです。世話焼きでなんでもやってしまうため、夫は自立せずお酒を再び飲みはじめてしまいます。これと同じ構造を虐待サバイバーとそのパートナーも持っています。

 

フラッシュバックに襲われていると甲斐甲斐しく世話が焼けるため、この状況がいつまでも続いてくれたほうが、パートナーはイキイキしている場合があります。そのため、虐待サバイバーの自立が阻まれて、自我の成長が停滞します。仮に虐待サバイバーの自我が成長してその才能を元気よく発揮しはじめたりすると、そのパートナーは虐待サバイバーへ嫉妬を覚えたり、深い孤独や抑うつ感から鬱の症状に陥ったりします。夫婦間の喧嘩もこの頃からはじまり、ご夫婦で相談機関を訪れたりします。 

 

虐待サバイバーの人たち:援助関係の中の虐待の再演 

 

ご夫婦関係の中で、かつての養育者と虐待関係を再演する場面は心理カウンセリングの面談の中でも起こります。 

 

虐待サバイバーの方の感情が渦巻くこの関係に巻き込まれながら、それを分析しているのが心理カウンセラーの仕事です。虐待サバイバー方の過去の問題に巻き込まれても、心理カウンセラーが過呼吸やパニック発作を起こしていては心理カウンセリングは務まりません。 

 

時に、虐待サバイバーの方の無意識は、心理カウンセラーに虐待した養育者の影を見つけ出そうと、心理カウンセラーに試練を与えます。この無意識の試練によって、心理カウンセラーは動揺させられ、クライエントの方に感情的になりかけてしまうことがあります。こうしたことがきっかけで、信頼関係を一から構築しなければならなくなります。 

 

心理カウンセラーの感じている「この感情は一体何だろうか?」「どうして今、このクライエントさんは私に怒りを誘発する言動をとらなければならなかったのか?」感情によって揺さぶられることなく客観的な視点を持ち続け、今ここで表現されていることは一体何かの見立ては非常に大切であり、クライエントの方がそこに気がつくときが変化と成長に結びつきます。まるで憑依していたものが落ちた時のように、「あの頃の自分は一体何だったのか?」という驚きとと共に変化はすでに訪れていたりします。 

 

われわれは人間関係の基礎を乳幼児期の養育者との関係において形成してきました。成長と共に人と関係をもつことは、初期の養育関係が下地になっていますから、他者との人間関係においても自分の養育者と重なる部分を探そうとします。

 

あるいは自分の養育者が自分にしてきたことを他者にも同じようにしようとします。心理学や精神分析ではこれを「転移/逆転移」と呼んでいます。この気がつけば他者に父親を、あるいは母親を転移していたり、心理カウンセラーがかつての自分の知り合いに似ているクライエントさんに転移してしまったりと、制止がきかずに「転移/逆転移」はいつの間にか発生します。 

 

「転移/逆転移」をとおして、虐待サバイバーの方は過去のトラウマの恐怖が現在のものではなく、過去の出来事と再確認する作業が繰り返されますと、現在の自分の中にその記憶が統合されます。時間軸が過去-現在-未来という流れを持つようになるため、未来の自己像がイメージできるようになります。 

 

その時、自尊感情は高まり怒りの感情があふれ出すかもしれません。この怒りのコントロールに振り回されることなく、FAP療法を活用しながらトラウマ治療に力を注いでおります。 

 

●ご興味のある方はこちらからご予約を頂けます。

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