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コラム:トラウマが脳に及ぼす影響

コラム,  トラウマ治療   2022/10/26 (水)  4:58 PM

皆さんも「あ!危ない!!」と危険を回避した経験は生きていればお持ちかと思います。 トラウマとは、おおよそですが「あ!危ない!!」と似ている心理状況です。

 

この「あ!危ない!!」という情動が、日常的に頻繁に繰り返されるとしたらどうでしょうか。 休む間も与えられない心は、そのストレスで損傷してしまいます。

 

損傷していても、社会的動物である人間は社会に適応しようと身を投じなければなりません。これがトラウマ体験を持っている人たちに生きづらさや苦しみを強く感じさせています。 

 

トラウマによって生じた強烈な情動は、大脳辺縁系の「扁桃体」と呼ばれる領域を活性化させます。扁桃体は危険を警告する脳の部位でストレス反応として体に表れます。

 

ここで問題なのは、トラウマ体験を持つ人が、そのトラウマを誘発する場面に遭遇すると、たとえその体験から長期間経っても、偏桃体はその当時のままに危険信号を鳴らして過剰に反応してしまうことです。 

 

偏桃体の活性化は、執拗以上に恐怖を増幅させ、「これは私の終わりなき恐怖である」と誤認させてしまいます。 トラウマの支配はここからはじまります。

  

トラウマが脳に及ぼす影響:遠回りさん 

人間の行動が合理性や利便性、有益性、社会的利益のためだけに行われるものではない場面に遭遇することは多々あります。

 

「おや??」と思われるほど、わざわざ遠回りをする行動です。その行動のレベルが、はたから見ても反社会的であったり、常軌を逸したり、社会生活を困難にしてしまうの場合、メンタルな問題として扱われます。

 

当人は遠回りをしていると思っていません。その作業の前にどうしても安心感がほしいのです。 こうして社会と遠回りさんとの間に齟齬がうまれます。 だから職場などでこうした場面に遭遇すると 

 

「おや?どうしてまたあんな無意味なことをしているんだろうか?」 

 

「こっちのやり方のほうがいいって、3回どころか10回は伝えているのに、なぜ!?」 

 

「さっき確認したのにまた確認している」 

 

その場では「はい、わかりました」と言いますが、なぜかまた同じミスを繰り返します。「こっちの方が便利で早いよ」とアドバイスしても、当人には便利や速さの価値は、時間の経過と共に薄れてしまいます。それが教育現場の場合ですと、 

 

「どうしてこの漢字が書けないの」 

 

「さっきと同じ計算なのになぜ間違えるの!?」 

 

「中学生でこんな低い跳び箱が飛べない訳がない」 

 

などと一般社会さんは訝しくなり、「ふざけているだけなのか?」などと捉えてしまいます。 

 

こうした遠回りさんの行動には、発達障害や統合失調症、強迫神経症、適応障害、うつ病、極限性学習障害が隠れている場合もあり、精神科の受診や心理カウンセリングが必要になりますが、実は発達障害でも統合失調症でも極限性学習障害でもなく、過去のトラウマ体験が脳機能を低下させている場合があるかもしれません。 

トラウマが脳に及ぼす影響:遠回りさんの言い分「私にも安心感が必要なの」 

 

過去に心的外傷を及ぼすトラウマ体験に巻き込まれた人たちは、トラウマを誘発するイメージや音、場面,人や物に遭遇すると、現在今ここでとるべき行動が後回しになります。 

 

その優先順位は、過去の恐怖とその不安感、親からの虐待、災害のショック、引きちぎって自分の中から抹殺してしまいたい羞恥心、最愛の人たちとの別れや死別の悲しみ、こうした「過去」が「現在」の中に今も生き続けます。

 

このようなトラウマ体験という過去は、言語化されることなく、他者に安易に語られることもなく、当人の中で現在という時間軸に飛び出す断片として絶えずショックを与え続けます。 

 

触れようと思えば触れられるけど、あえて触れないし、今はまだ触れない方がいいような、、、、トラウマ体験への意識とはこのような漠然とした感じで無意識の中に住んでいます。 

 

たとえそのトラウマを暴露して「親からの虐待を受けていた」と語ったとしても、その言葉には感情が解離して、まるで「他人の話」をしているように語ることがあります。 

 

あるいは、トラウマ体験を誘発するような言葉や行為に対して、強い怒りをあらわにするかもしれません。残念なことに、トラウマの問題とは無縁の人には遠回りさんの行為を解せずに以下のような苦言を訴えてしまうことがあります。 

 

・「何度言っても~をしてくれない?簡単なことなんだけど、、、、」 

 

・「自分を無視しているのでは」 

 

・「言葉を選ばないとすぐにトラブルになる」 

 

・「その程度のことで、どうしてあの人は怒り出すのかわからない」 

 

・「何度何度も確認している」 

 

・「現実感覚がないから不信感ばかりになってしまう」 

 

・「ものが片付けられない、捨てられない」 

 

そして、決まり文句のように「どうやらあの人とは価値観が違うようだ」という単純な答えを引き出してしまいます。遠回りさんには、本人だけが知っている優先順位がどうしても必要なのです。けれども 

 

「なぜわざわざ、あんなに回り道をするのだろうか?」 

 

「どう考えてもこっちの方が便利でスムーズなのに、なぜ、、、!?」は繰り返されます。 

 

トラウマが脳に及ぼす影響:平和な時でも戦闘状態 

 

脳がトラウマ体験によって衝撃を受けると、常識が支配する合理性と利便性の世界は二の次になります。合理性と利便性の世界はその基盤に必ず心の安定感があります。トラウマを受けている脳には、偏桃体の過活動によって「安定=油断してはならない」という回路が形成されています。 

 

まず、私の頭の中で起きている事態と私との戦争が展開されます。何処かに爆弾を仕掛けられた日常生活なのです。それは人間を恐れるあまり、人間回避として表れるかもしれませんし、依存症のように何かに耽溺することで自分とトラウマとの戦いを見失わせているかもしれません。 

 

いつ襲われるかもしれないという恐怖や不安は、ふとした拍子に頭に蘇ります。いわゆるフラシュバックです。その状況を説明できたり、語ったりすれば多少の問題軽減にはつながりますが、トラウマ体験の感情は解離しているため、そのトラウマを自身のものとして受け止められず、トラウマは言語化される機会を失います。

 

あるいは、無意識に「これを語るくらいなら、評価が低くてもいい人から勘違いされても構わない」という茨の道を選択している場合もあるかもしれません。この場合、自己肯定感が持てず、才能や能力は他人に利用されてばかりの不毛な生き方を選択してしまいます。

 

他者には「様子がおかしい人」や「不思議な人」、「控えめでやさしい人」程度にしか思われません。 

 

トラウマ体験を語ることは、このように苦行であり、それは自分のものではないという否認が心理的に強く働いています。そのような心のな状況を知るはずもない、常識が支配する合理性と利便性の世界の住人は、戦闘状態の相手が理解できなかったり、私を避けているのかと判断したり、性格が変わっているように思えたり、スムーズな対話ができないためもうパートナーとしては無理かもなどと勘違いを起こしてしまいます。 学童の場合ですと、いじめの被害に巻き込まれることもあるかも知れません。

 

あなたが平穏な日常を送っている時、その相手は誰にも知れずに過去のトラウマが頭に侵入して脅かされ、見えない戦争の真っただ中に飛び込んでいるかもしれないのです。 

 

トラウマが脳に与えている影響について理解することが、人生で誤った判断を避けることにつながってゆきます。 

 

トラウマが脳に及ぼす影響:トラウマを持つ人のストレスホルモン 

 

「期限まであと10分しかない!!処理できない量の仕事を前に上司のダメ出しのイメージが私を脅かす」このような経験は誰でもお持ちかと思います。 手に汗をかく、ドキドキする、呼吸が深くなる、こうした身体反応はストレスホルモンを一時的に増加させています。一時的なので数十分、数時間、長くても数日すれば忘れてしまいます。 

 

けれども、トラウマを負った人のストレスホルモンは、以下の特徴があります。 

 

・正常値に戻るまで長い時間を要する 

・軽度のストレス刺激に過剰に反応して増加

・ストレスホルモンの高い値が記憶力や注意力の低下を招く 

・短気になる 

・睡眠障害 

・過度の緊張 

・否認

(脅威や恐怖の前で平然としている解離状態) 

 

トラウマが脳に及ぼす影響:脳の三層構造 

人間の脳は三層構造であり、各層から進化の過程を見ることができます。 アメリカ国立精神衛生研究所の脳科学者ポール・D・マクリーン博士は 1990年の著書『三つの脳の進化』の中で、脳の各層の役割や特徴について以下のように述べています。 

  

・爬虫類脳(反射脳) 

  

爬虫類脳はもっとも古い脳で脳の一番内側に位置します。 脳幹、大脳基底核、脊髄によって成り立っている場所です。 

 

生命維持の脳と呼ばれたりします。 自律神経はこの場所でコントロールされます。 

無意識領域の呼吸や心拍、体温の調節、飲食、性行動、危険を察知した時の反射などが 爬虫類脳のはたらきです。言い換えますと、安全への防衛本能はこの部位が司っています。 

  

・哺乳類脳(情動脳) 

  

爬虫類脳の次に古い脳が哺乳類脳で、情動脳と呼ばれたりします。 偏桃体、海馬、帯状回を含む大脳辺縁系で構成されるこの場所は 

喜怒哀楽や恐怖、愛情、共感性などを調整しています。 養育や社会性や集団行動やコミュニティ形成はこの部位の影響を持つといわれています。 

  

  

・新哺乳類脳(理性脳) 

  

脳の一番外側に位置する進化の過程で最も新しい部位です。 別名理性脳と呼ばれています。 大脳新皮質の右脳と左脳で構成されています。 

認知、学習、言語、空間把握、クリエイティブな思考を担っている場所です。 動物と人間の違いを大きく区分する場所です。 

 

よい未来へ向かうために私は何がしたいのか、あるいは、どのように成長したいのかと 考える、いわば、自分を現実的かつ理性的に判断して、能力が発揮できる状態を創造する 場所といえるでしょう。 

 

・ 爬虫類脳は脳の一番内側の部分で生命維持機能をつかさどるため、危険や脅威に対して敏感に反応します。トラウマの脅威によって敏感になりすぎた爬虫類脳は、最後に発達する前頭前皮質の働きを妨害します。トラウマによる脅威は、今現在に無関係である情報を選別排除できなくさせます。 

 

トラウマが脳に及ぼす影響:PTSD障害、フラシュバック 

 

PTSD障害によってトラウマの脅威にさらされている状態は、脳にとってどのような影響を及ぼすでしょうか。強度の怒り、悲しみ、恐怖は情動脳(哺乳類脳)を活性化させると同時に、その反動で新哺乳類脳に位置する前頭葉の活動が低下すると脳神経画像の研究から報告されています。

 

衝撃的な情動を処理しきれずに、つまり理性を逸してしまう状態はアルコールや薬物への依存やひきこもり、様々な恐怖症と人生の負のスパイラルを招く原因となります。 トラウマの時間は過去が処理されない状態のため断片として時間が保存されています。

 

それがフラシュバックと呼ばれる状態です。恐怖や屈辱、悲しみ、怒りのフラッシュバックは突如現在の生活に侵入してきます。生活はフラッシュバックを回避することが優先されるため、やはり、自分の能力を創造的な次元にまで高める機能をもつ理性脳(新哺乳類脳)はいつまで経っても活用されないままとなってしまいます。

 

そのフラッシュバックを忘れたいがために、我を忘れる程何かに没頭して、社会的高評価や人々の賞賛を得られるかもしれません。しかしその社会的昇華によって、幸福感に導かれることがなく、虚しさと虚脱感のみを味わう場合もあります。 

 

トラウマに気づかず、トラウマが治療されないことによって、現実を生きるチャンスを見失っているから、社会的評価のため、金銭のため、名声のためと脳は誤った判断をあなたに与えるかもしれません。しかし、これらを求めても一向に幸福感や満足感と出会えなかった歴史を人間は知っています(もちろん、手段として求めることは大切ですが)。 

 

脅かされず安心したい

花は自分に対してなんて静かなのかと思ってしまいます

あの静かさの名前を才能と呼ぶのでしょうか 

過去に脅かされなければ

そんな静かで美しい花を今ここにあなたも持っているはずです

ただ、咲くだけなのに遠回りしてしまうんです

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